喜淫小説101弾≪ 弧獣一路・・34 ≫

 道跡は草が生い茂るが判る、其れを習い歩いて行くが道々色んな
話を妙子さんと早苗さんが話されている。
「え、では此処では七軒が在ったんだ」
「そうなるけ、最初に出ていきんさった人が昭和四十年半ばかのう、
光代さんが大阪で苦労され店を開きんさった。其の後数年で親戚が
のう出ていきんさる」「なんとでは外に出て成功か・・」
「そうなるけ、最後に残りんさった婆ちゃんも去年いきんさった」
そう話をされた。
 大きな柿の木の舌で話を聞いている。
「成程な苦労して店持ち」「そんで、皆が其れを伝にとでんさる」
「判るが、じゃ奥は・・」「其処も似たようなもんじゃろうて、広島や大阪
其処は早くから此処に見切りを付けんさった」「広さは・・」
「この谷の半分くらいかのう、でももとは此処で生まれた人が奥にと
向かいんさったんだ」「成程な・・」
 写真を撮りながら奥の谷にと向かった。
だがそこで見る光景は無残、既に平地でも翔馬のセイくらいは伸びる
雑木林、其の中央を流れる川面が太陽に光り輝いていた。
住んだ跡の証にか、石堤が数か所残るのみ、手前の谷とは雲泥の
差が見える。
 一時間歩いて、元の谷にと引き返す。
其の頃は此処で住まれている妙子さん早苗さんは言葉が少ない、
互いに此処を見て自分たちの行く末を重ねられていると察した。
昼過ぎ、暑いから早苗さんの家に戻る。
其処で素麺を啜り乍ら会話は見て来た谷の事を話している。
 「翔馬、お前・・」「・・、うん、考えているが」「・・、・・」
「翔馬さん、あの谷に何か用事かね」「其処も何もかも用事じゃが」
「ええ~・・」意味が読めずに早苗が苦笑いする。
「早苗さん、アソコのつながりは未だ有るんか」
「有る、電話で何度も会話しているが、一度大阪に出て店も見さして
もろうたが」「そう、じゃ連絡つくね」「え、そうだが、あんた・・」
「未だ考えが固まらんが、何かしたいとは思っているんだ」
「ええ~、あんな谷でかね、何でアソコなの・・」
「意味は無いが、昨日息子さんに聞いたら見たくなったんだ」
「そういえばあいつ、翔馬さんが此処で居られるなら付いて歩くと」
「えっ・・」「それがのう、事故仲間の耕一君もそんな気持ちじゃと」
「なんと、ではあいつら・・」「そうなる、母の圭子さんと手わしと
同じ身じゃろう、そんでわしらもそれには良いと直ぐに返答した」
「あらら、じゃあいつらと母親、あはっ、翔馬大変じゃな」
「妙子さん・・」そこで大笑いされる。
 数日後、美咲が久しぶりに顔を出す。
「あんた偉い事に為りそうじゃがね」「何・・」
「もうしらばっくれて、美咲も入れてよね」「ええ~・・」
「だって、達之から電話が来て話を聞いたが」「ああ、そうか」
「そうかじゃないが、何するん」「考えも及ばんが、何かはしたい」
「だから何」「もう諄いぞ、判らん」呆れ顔で見詰める美咲。
「だがな何かをする事は決めた」「うひゃ~此処で何か興すんか」
「そうなるかな・・」「良いわ、大好きじゃ翔馬・・」
「うげ~何んんさる」「阿呆、違う好きな方じゃがね」
「く~驚いたぞ、親子かと・・」「そうなってもええが、此処で居るの
ならね」「阿保か・・」そんな会話ができる相手だった。
 夕方、一人になると色々と考える、だがこれと言った事が思い浮か
ばない、里で育ったのは中学まで、農業など何も知らない、其れで
戻ると自分が暮らした事等夢の中、現実は厳しい過疎地そのもの。
何とかしたい事は確か、あの奈良の桜井の由美子さんからも煩く
言われている中、翔馬は頭を抱えていた。
部屋に籠って色々と参考書を読んでいる。
どれもこれも色々と問題がある事が読み取れるが、其処は何とか
しないと此処では何もできないと思える。
自分が知る限りではこの地には十代から三十代までの人は数が
知れていた。
若者はこぞって外に出て行く、暮らしは元より夢が無さ過ぎた。
あれやこれやで、今じゃ如何しても残らざるを得ない人々が、
年老いた両親を持つ身、他は都会で暮らせず戻る人も居るが其処は
僅かだった。
翔馬が戻り迎えてくれた若者は数人、しかも学校の同級生となると
六人しかいない、其れに加えるとあのバイク事故の若者二人。
後三十代までは二十数人と美咲から聞かされている。
それらで何かを熾そうと考えているが、いかんせん知識が乏しい
翔馬には良い案等浮かんで来ない。
 稲刈終えると静か、後は冬を越すためどうするかぐらいの考え、
そんな何もない田舎じゃ若者は逃げ出すなと再度知らされる。
重い腰を上げて、勤めの大阪にと向かうが、其処でも由美子さんから
怒られる始末、何とか考えないサイト尻を叩かれるし、
婆様も追い打ちをかけられた。
そんな中でも加奈子さんだけは優しい目で何も言われない、
二歳になる子供を翔馬があやす中、腹には直ぐにでも生まれる子が
宿る体、そんな中でも美代さんと加奈子は大事な相手、
無論由美子さんは別格、加奈子の義理の母親だが、性根が座って
見事な女性だった。
「翔馬、今から此処に行ってきなさい」「え、誰・・」
「あのね、あんた師匠にしなさいや、この人が農学博士」「ええ~」
「奈良の大学に居てはる」「会うんか・・」
「参考に為らへんかもしれへんが、話を聞くだけでも良いがね」
「そうだけど」気が乗らないが、心配されての事と思うと断れない、
先方に電話されアポイントを由美子さんがとられる。
 そうして二日後初めて奈良市内にと足を踏み入れた。
朝早く出たから大仏さん見学に向かう、シカが居るし観光客も
大勢いる、楽しんで目的の場所にと向かう。
午後一時過ぎバスで向かう所は閑静な住宅地、人に尋ねながら
なんとか其処の家に到着、玄関で出迎えられた女性は六十過ぎ
だろうか、気品あふれる人、笑顔で聞いていると翔馬を部屋に
迎えられる。
 部屋に上がると直ぐに茶が出される。
「・・、・・」お茶を持って来られた女性が何とも言えない綺麗な女性
挨拶を忘れ慌てて頭を下げる。
其処に迎えられたおばさんが部屋に来られる。
「聞いたけど、田舎だそうだね」「はい、広島から奥に向かう場所です」
「邑南町だそうだね」「ハイ・・」そこから意外な話を聞かされる。
 「え~ではおばさんは広島の新庄ですか・・」
「生まれはそうだ、でも出てから長い事向かわんが・・」
「・・、・・」「家が無くなっているしね、親は此処に呼んで
二人とも亡くなっている・・」「そうでしたか・・」
だが、翔馬は「おばさんとばかり話ししてて肝心の人はと・・。
 しびれを切らせて、翔馬が聞いた。
「あのう先生はお留守なんでしょうか・・」
「・・、あはっ、そうか私じゃ無理かね」
「え、そうじゃ無いけど、此処に向えとだけ言われているんです」
「うふっ、由美子さんらしいがね」「え・・」
「何時お戻りでしょうか・・」「何時になるか、もう無理かもしれん」
「え、何でです」「上に往っているし、戻れんじゃろう」
「・・、ああ~じゃ・・」「夫じゃ・・」
「これは知らないから失礼しました」笑われた。
「ではお邪魔してても如何かと・・、此処で失礼いたします」
「そうか帰るか・・」「ハイ・・」
「何で来たのかね」「其処は先生に相談しようと・・」
「じゃ聞かせてくれんかね」「え・・」
相手がおばさんじゃ無理と察し、翔馬は相手を見た、
「顔に何かついているんかね・・」
「・・、え、え、え~じゃじゃ青山先生とは・・」「私じゃろう」
「なんと、失礼いたしました・・」
翔馬は平謝り、その姿が可笑しいのか長い間笑われる。
農学博士が男性と決めつけていたから、
とんでもない失礼をしてしまう。
 そこから、もう翔馬は焦り手繰る、ヒア汗を掻きながら話をするが、
もう何を言っているのかも判らなかった。

         つづく・・・・。
















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