◆本日開始◆異淫小説102弾≪獣を潜ませ生きる・・初回≫

 春が芽吹き、周りは新緑が眩しい時、田中翔太28歳は愛車の

プレリュ-ドを走らせていた。

向う先は六年ぶりの里帰り、とは言っても里は既に無くなっている。

 六年前、翔太が大学二年生の時、其れは突然起こった。

青天の霹靂、正月明けの一月半ば、一本の電話が人生を変えた。

両親が交通事故で亡くなった報せなのだ、忘れ得もしない、

今走る中国道を現在の面持ちとは真反対、どうしてどこを走った

のかさえ今じゃ覚えてはいない、

其れほど衝撃を浴びる体がハンドルを持つ手に伝染し、

震えて居る事だけは鮮明に覚えているだけだった。

叔母さんが泣かれる中、翔太は夢遊病者の如く手が付けられない

程憔悴、一週間は何も出来ない、する事が出来ない、

そんな翔太に叔母は常に傍に居てくれた。

 一月下旬,叔母の強引さで翔太は大学を辞めずに大阪に戻り、

何とか大学を終える事が出来ている。

今こうして里に戻れるのも叔母の後押しで有る事は間違いない。

そんな思いで平成十五年四月二十六日、車は翔太を乗せ中国道を

走って行く。

 大阪を出てから間が無いが、なんとトイレを探す事に為った、

岡山県に入るともう周りは山々また山の間合いを走る。標識に、

駐車エリアを見つけ其処に向かう。其処は小さなパーキングエリア、

この先には落合と言うサービスエリアが有る筈だが、とても間に合い

そうもないので車を美作追分パーキングに向かわせた。

 閑散としているがトイレは好都合、駆け込んで何とか用を足す。

 ふ~良い景色だ、春だぞ・・」

そんな独り言をトイレから出て叫ぶように言う。

「・・、・・」なんと駐車場には三台の車しか見当たらない。

 その中の一台の車の傍で屈んでいる女性が見える、

翔太が其れを見ると、相手の女性も翔太を見られていた。

普通じゃない顔つき、何か有ったんだと察し、傍に行く。

 「何かお困りなんですか、それとも・・」「・・、・・」

相手は軽快されたのか返事がなかなか戻って来ない。

「どこか体の具合でも悪いんですか・・」

「いいえ、そうじゃ無くて、車が・・」

「車・・、あ・では故障・・」

「そうなんかね、ガスは有るんだけど懸らないの」

「見て良いですか・・」「・・、・・」

返事の代わりに頷かれた。

翔太と手車はそう得意では無い、PCなどはお手のもんだが車は

苦手部類。

本当にキ-を回すもウントモスントモ音が出ない。

「あのう此処にくるまで異変は・・」「何も、私も車判らへん」

「バッテリ-かな」エンジン周りを見るが何も変哲は見当たらない、

翔太も判らないがバッテリ-と思込んで自分の車を後ろに付け、

幸いに二年前買っていたコ-ドを繋ぎ自分の車のエンジンを懸ける。

 だがだが相手の車は何も変化がない、バッテリ-では無かった。

「奥さん、此れ電気系統かも・・」「え・・、困る」

「でも素人じゃJEFを呼びましょうか・・」「知らないの」

「じゃ僕が電話しますね」翔太は携帯で電話する。

「良かった、落合から来ますよ」「本当に有難うございます、もう女は

機械には疎いし・・」苦笑いされる顔が真素晴らしい、

初めて相手の顔をまじまじと見た。

 「お急ぎなんでしょう」「そうでもないです里帰りの途中ですから」

修理をされる人が来るまでは居ようと決め、ベンチで並んで座る。

春うららかな中で翔太も最高な姿の女性の横で色々と話を始める、

二人の手の中には缶コ-ヒ-が有る。

 「ま~じゃこの先ですよねでも島根県ナノ」「そうです、山奥です」

「ここ等もそうよ」

笑われる横顔がいる陽に灼けた健康そうな肌を輝かせている。

 二十分が瞬く間に過ぎて,JEFの車が到着、暫く車を見られる。

「これは電気系統ですね、直ぐには此処じゃ」「如何すれば・・」

「落合インタ-傍に工場が有ります、其処に・・」

「ではお願いできますの・・」「ハイ」そんなやり取りを翔太は聞く。

 レッカ-で運ばれる車を見送り、翔太は又もベンチに二人で座る。

「送りますね」「でも悪いわ」「じゃ如何して帰るんですか」

「ま~意地悪ね」「うふっ、そう思えますよね、済みません」

そんな遣取りも楽しい相手、翔太は其処からまた色んな話をする。

家は落合インタ-を降りると直ぐだと聞かされた。

「もう車は・・、でもないとここ等じゃ不便だしね」「そうですよ」

「でもね、車は嫌い」「僕もです」「あらほんま・・」「嘘です」

「もう・・」笑われる。

名前は中野菜摘、年は聞けないが三十前後かなと観察する。

以前働いていた神戸の仲間の所からの帰りと聞く、その仲間は

女性かそれとも男かと聞きたかったが、其処は聞けない、

帰り道で此処でおトイレに寄ったとは聞いた。

 「貴方、急ぎますの・・」「いいえ、里帰り、知らせてはいないし、

急ぐまでも無いかな」「じゃじゃ、落合降りると私を送って貰った後、

温泉は如何・・」「え、温泉ですか有るんですか・・」

「ええ、落合から北に向かうと温泉が至る所に出ています、小さな

湯治場なら十軒くらいありますのよ、旅館やホテルも五か所」

「なんと知らなかった、あそういえばここ等に湯の字が入っている

場所が有る」「そう、湯原温泉」「あ・そうか、じゃ湯原湖」

「詳しいわね、其処から流れる旭川添いなら沢山湯治場が有る」

「なんと良いな其処にでも行こうかな」「是非、癒されますよ」

「何処が良いですかね」「え、何処も良いけど・・」

「何か知合い居られますか・・」「居るけど紹介するの・・」

「いけませんか・・」「いけなか無いけど知り合いか良いわ教える、

其れとも案内するの」「どちらでも良いです、」取敢えず送りますね」

漸く二人はベンチから腰を上げた。

車は落合インタ-で降りると、修理工場を奥様が覗きに行かれ

其処でも待つ、直ぐに戻られ、又も車は走る。

、三級国道を五キロ走って下さい」「了解・・」

そんな遣り取り迄できる間には為れていた。

 「あ、其処右山手よ」「了解」「ま~呆れる」「了解」「えっ・・」

顔を瞬時に見合わせて大笑いした。

山の中腹にクルマは登る。

 「アソコ・・」「うへ~高台だ」「そうも言うけど、山の中よね」

車はその山手の家にと向かうが、家が迫る中、翔太は驚いた。

其れは迫る家が立派過ぎていたのだ。

でかい空き地か駐車場か、家の手前の空き地に車を止める。

「降りて下さい、家にどうぞ」「え、其れは良いですよ」

「良かないでしょう、温泉・・」「ああそうか紹介ね、では」

奥様に従い広い庭を眺めてでかい家にと向かう。

 「ま~どが~して戻れた」「この方が親切に送って頂いたの、

車修理出したしね」「聞いたが、洋一に迎えにと思っていたんだ」

「遅くなるでしょう」「だね、あんた有難う、上がりんさいや」

気の良さそうな母親か、翔太を家にと招かれる。

 途轍もないでかい鴨居や大黒柱、玄関先には桜材の廊下、

部屋の仕切り上は彫刻された見事な欄間、天井は漆塗り、

呆れる程凝っておられる。

母親に聞くと四十五年前に新築したと聞かされる。

凄いと感嘆すると、先祖様様だがねと笑われた。

事聞いたら其れも有りかと納得、ここ等は邪魔な山があれよあれよ

との間に二束三文の山が化けたと、中国道なのだ、この家は中でも

一番金が入ったと母親が言われる。

あの落合インタ-はこの家の土地、其処は小さなブドウ畑、段々畑

や山裾が道に変わったと言われた。

 だがだが、この家の幸は未だ続く、なんと眼下に見える又綺麗な

高速道、米子迄伸びていると知る。

其れが二十五年前だと聞くと、翔太は唖然とするだけ、自分の里と

何ら変わらないが、変わっているのは運だけ、思わぬ道が二つ、

しかもその道路も山が引っ掛かっていると知る。

人生いろいろだ、こうも同じ土地乍ら違うのかと考えさせられた。

 「田中さん,洋室がええの・・」「え、どちらかと言えば温泉なら、

和室でしょう」「そうよね、じゃ予約しとくね」

「おい、其れは待ちんさいや」「え・・」

「だって、お世話になったお人じゃろうが、一晩位泊まってもらえや」

「あ、其れもそうよね、済みません」

「いいえ、温泉に連れられてきて居ますし」

「でも明日でも良いじゃろうがね、光江はこんな男と食事したことが

随分と昔じゃろうが・・」「お母さん」

「あはっ、其れなら良いですよ、僕も親を亡くしていますから、

甘えますよ」「く~、それ本当かね難儀しんさったのう、何時頃じゃ」

其処から翔太はかいつまんで事の経緯を話す。

 「ま~むごい事、そうかじゃ親とは四年かね」

何度も頷かれて話を続けた。

 予約先の宿は母のお友達との事で食事はその温泉宿で

四人でする事に決まる。


                つづく・・・・。















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