異淫小説102弾《獣を潜ませ生きる・・30》

 食事の後、翔太の扱いについて二人は話し合う。
「でも、其処は無理です」「いや、其処は認めて頂く、部屋もこのすぐ隣の部屋
が良い」「え、其処は厨房近くだから煩い、一階の角か二階なら何処でも・・」
「それは拙い、一番いい部屋ばかりじゃないか」「でも使わないし」
「僕が他で利用するかも・・」「貴方ね、此処如何したいの、もう其処が見え
ないから私悩む」「悩んでいてください、僕は明日から周りを探索に出ます、
出来れば御結びと水筒をお願いしますね」「出かけるって何処・・」
「外回り、あの奥の山裾迄行ってみたい」「え~もう誰も足を踏み込んでいない
から無理無理」「見たらそう見えますけど、僕は行く」
「藪やです木が生い茂って行けないわよ」「行く」「・・」
何を言っても通じないと里美は解った。
「じゃ、靴は長靴が良い、いろんな物がくっつくよ」「え、いろんなものって」
「行けば後で判るわ、何も知らないから大変よ」
「そうみたいですね、でも興味が在るから楽しい、其れと其処らの土地は何方の
物でしょうか・・」「親戚のものとこの家の物だけよ」「周りの山は・・」
「昔からの儘、皆家と親戚の物」「なんとそうなんですか凄い」
「何が凄いの、二束三文、今じゃ税金も僅かだけ、誰も忘れている場所」
そう言われる。
 翌朝、意気込んで翔太は早くから起きてごそごそ、「ま~早いわね」
「ワクワクしています」「でも今じゃ無理よ」
「何でです、早朝が良いと用意出来ています」
「あのね、今は朝露と霧、とんでもないくらい凄いんよ」
「え、霧,露ですか」「そう、少し歩いただけでずぶ濡れ、衣服が重くなる
から歩き難いし」「なんとそうなんですか、何も知らないから、そう言えば
外は霧で包まれている」「この霧が厄介かな、でも樹木には最高」
「ですね、成程」聞きながら外の長椅子に腰かけてコ-ヒ-を飲んでいた。
その後姿を見る里美は不思議な人と呆れるばかり。
漸く出かけられることに為る、時間も既に十時前だった。
 「あんた、此れ担いで行って」「え、リュックじゃないですか」
「中に必要な物入れて置いた、重いけど必要になるかもと」
「何が入っているんです」「いろいろよ、水稲や握り飯と、包帯部類と、
虫除けのスプレ-や傷薬」「なんと用意周到ですね、最高だこれ借り手と、
では行ってきます」後ろ姿で手を振りながら翔太は向かう。
(なんて人なの、理解不能、ああ~もう早く諦めてくれないかな面倒な人よ)
姿が消えると、お客もいないから里美は娘に会いに出かける。
 翔太は言ったはいいが、なんと悪戦苦闘、見える程度じゃ計り知れない程苦労
をしつつ、奥にと脚が進むが、其れが何と時間が懸る事か、背丈以上に伸びる
木々、一番は杉の木が邪魔、葉がイガイガしているから手に負えない、
足元はぬかるんでいないから未だましだが、下を見て横を見て進まないと拙い、
悪戦苦闘とは此れかと苦笑いする。
 だが、色々な楽しみも有った。
一番は出られた家の敷地後、其処は石垣など残されているから腰を下ろすことが
出来る、その屋敷跡には色々な果樹木が望めた。
今盛りの梨や柿、クリなどがもう食べてよと垂れ下がる枝にもぐれ付いていた。
最初は柿をもぎ口にほうばるが、此れが傑作、渋柿、慌てるが其処は有るかと
苦笑い、楽しさは有るが、なんせ道など僅かに形は残るが、舗装されていない
ところなど道とは見えない、其れほど僅か五年でこうも変化するのかと、
自然の力を知らされる。
 振り返ると何となだらかな傾斜を伝い歩いて来たと知る。
既に今は流れる小川に沿い奥にと進んでいる。
 一時間半後、急に進む足が遅くなる。
思えばもうここ等は以前の谷での生活範囲を外れたのかと想像した。
今までは何か藪の中でも明かりが指す程度の場所だったが、
今じゃもう所狭しと雑木林群、かき分ける程度じゃとても進めない、
何とか小川の小さな滝の傍で腰を落とし一休み。
「うん、何じゃ、ああ・ああ~岩魚か、うん鮎か何・・」
小さな滝壺を覗くと本当に綺麗な水、其処が丸見え状態、その中で優雅に泳ぐ魚、
滝が落ちる場所では産卵を終えたのか死骸が沈んでいた。
(く~凄いぞ、此処は水も何もかも新鮮じゃんか、最高だぞ)
感嘆しながら疲れも癒された。
 昼前もう少しと頑張り、川伝いに進む。
午後一時前、漸く昼飯、お茶も有ったが、小川の水を救い飲んで食べ、美味しい、
本当に美味しかった。
暖かいコ-ヒ-を水筒から出して飲んでいた。
「え・・、何なんじゃあの鳥、あ、鳴き声が,雉だぞ、なんと居るのか待てよ、
アソコにも~向こう側から飛び出したぞ」
冬に向けての巣造りなのか、それにしても数が多いいが、周りを見渡し感歎。
 漸く奥の大きな山裾に到着、斜面を這いつくばり昇る、其処でも写真を撮り
まくり、此処まで来るに何度もシャッタ-を押していた。
「え・・ふ~これが上から見る全景か・・」
「え・・暫く眺めを満喫、此れをどう生かそうかと考えるが、今の翔太じゃ
とても其処までは思いが浮かんでは来ない、でもどんな場所かは知る必要が
あると、其れで来ていたのだ。
 あおむけで寝て空の雲の流れを見つつ、天気は良いので寒くは無い、
目を瞑ると色々と過去が浮かんで巡る、何で会社など捨てようとするのかも
思うが明確な答えは戻らない。其れも考え今までの女性の姿も浮かんで来る。
 漸く腰を上げたのが既に午後三時過ぎ、戻りは左側の山裾をと思い向かう。
これがとてつもなく大変、道など足元には無い、切り株や、蔓の蔓延に悩ま
される、足元に絡む蔓程厄介なものは無い、とんでもなく疲労を増幅させる。
溜まらず一時間でせ音を上げる。
十時から歩き続ける脚は限界を超えていたと知らされた。
足が震える程筋肉が疲労混倍、流石に焦る、当りは暗く為り出すし、
宿は姿かたちさえ見えない、上しか見えない場所、横など雑木林、溜まらず横
の傾斜を這いつくばり上がる、其処で見渡すが、もう暗い中、かすかに見える
のは、宿の街灯、其の明かりの方向と見定めて、元に戻り歩いて行く。
流石に懐中電灯はリュックには入っていない、既に足は限界を超えてしまう。
諦めて古い切り株に腰を落とした。
 迂闊そのもの、夜のとばりの速さもそうだが、計画性が無い、そうして自分
の体力も考えて居なかった、女性を抱く力と脚の力は別物、苦笑いして転がり
空を見た。
「・・、なんと此れこれが星空か、知らなかったぞ、綺麗・・」
本当に固唾をのむほど美しい星のきらめきを初めて目にする、都会の明かり
など無いし、周りは真っ暗、おまけにお月さまは居られないんだ、感慨無量、
疲れ等一瞬だが忘れていた。
 腕時計は微かな星明りで午後六時を指そうとしていた。
(ま~疲れをいやして又歩けばいい、焦る事は無いぞ)
自分に言い聞かせながら翔太は束の間の休憩を取る。
 その時、断末魔の叫びのような女性の声が微かに聞こえ、此処は静寂な世界、
聞こえたのだ。
翔太は直ぐ立上がり、「生きているぞ~、心配させて御免、もう直ぐに歩ける
から、心配せずとも良い、出来たら庭で焚火していてくれ、方向が見えんが~」
「・・、判りました、気を付けて焦らず、方向間違わないで下さいね~」
「有難う~・・」里美さんが心配されていたのだ。
 一時間後何とかよれよれの姿で宿の庭にと藪から帰還、其れを見つけると
里美が駆け寄り抱付き、バカバカ~もう何処までいきんさったんと泣いて怒る。
「御免、戻りが大変」「後で良い、早くお風呂、傷は無いの、有ると思うけど
其処は後、早くお風呂よ」「うん・・」従う。

               つづく・・・・。

















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