異淫小説102弾《獣を潜ませ生きる・・57》

 夜中十一時、漸く散会、酒と話に興奮しまくり、仲間は又も幸子さんの
車で送られる。
残される二人、此処は沙織さんの実家、今は総て翔太の物に為っているが、
未だに何もかもが以前のままだった。
 互いに少し戸惑う、二人きりは旅で経験はしているが今は如何、此処は
里の家、特に沙織は気が重い。
「お風呂如何かな・・」「良いわ支度で来ているし、でも汚いし」
「おう、何じゃ其処そう言わんでくれんさいや、今は僕の家じゃろうが」
「ああ、そうだわ、御免なさいね」
「あはっ冗談じゃ、そうだ先にお参りせんと拙いぞ」「何処にいきんさる」
「あんたも来て」「え・・」家の中で手を引っ張られ沙織は訝る。
「ええ、此処は仏間よ」「そうだ、先祖様にお願いする、あんたも座って」
 長い間手を合わせる翔太、横で同じ姿でも沙織は少々戸惑っていた。
「良し、此れで良い、今夜から僕は此処の家の主に為る、良いよね」
「え、其れは決めた事と、総て書類も済んでいるし」「じゃ、主か」
「そうなるよね」「そうか、じゃ主に為るね」「・・」
何が言いたいのか沙織には理解出来ていなかった。
 翔太は風呂にと向かう、其れは自然な動き、沙織は後片づけをしながら
翔太さんの主の言葉が気に為る。
意味は深いのかそれとも当たり前なのか、此れから如何なるのか、未だに沙織
のいる位置は不安定のまま、娘が世話になって居る事は確かだ、じゃ親の自分
は如何したら良いのかとさい悩まされていた。
 思えば大阪の小百合さん、落合の菜摘さん親子、其れに今度仕事をされる
親子、少し聞いている有馬温泉の旅館の女将さん、なんと数えれば多く居た、
其れだから悩んでいるのだ。
 そんな時、「沙織さん来て~」翔太に呼ばれた。
呼ぶ場所は風呂場、沙織は急いで向かう。
「何か・・」「悪いが入って来てくれんさいや」
「何か足りないものでもあるん」「ある」「なあに・・」
「沙織さん僕の背中洗ってくれんさい」「えっ・・」
一瞬、脱衣場で立って話をしていた沙織が体を硬直させた。
「無理ならええけ~」「・・」「忘れてくれんさい、我儘ゆうて御免」
「・・」そう言われているのに返事が出来ない。
「もう良いです、寒いから帰って・・」「・・」
言われて沙織は言葉を失いその場を立ち去った。
 「・・」無言で炬燵に入り、頭を炬燵の台の上に落とし肩が震える。
先ほど考えていた事が現実に為ろうとした時かと思えた。
だが心と体が同じ考えとは違う、動けなかったのだ、後悔するが、
其処もそうかとは言い切れない、其れほど支離滅裂な今の沙織の心境だ。
子供じゃ無いし、言われるままに動けば後は悩みなど要らん筈、
だが現実脱衣場から逃げ出している。
これからの事を思うとやり切れない、こんな苦しい思いをするならいっそ
野田の爺様の囲い女にでもなった方が良かったのか、其処まで考えた。
だが、その思いは一瞬に消える、今は有ろう事か娘が大阪で夢のある道を
歩もうとしている矢先、母親の自分がこんな事で悩んで進めないとは歯痒い
面も有る。
最後は女、女でも沙織はあの翔太さんが関係する女性達とは一緒じゃないと
思いたかった。
 其処に風呂から上がった翔太さんが炬燵に入られ、無言、そうしてテレビを
点けられるが真夜中、こんな田舎では遅くまでは無いし、
有のはショッピング番組だけ、翔太さんはテレビを消すと寝床にと向かわれる。
 「あ、一枚か、仕方ないな」独り言を言いつつ翔太は布団にもぐり込んだ。
最初の夜、二人の家では互いに虚しさがこみ上げる仲だった。
 沙織も然り、風呂に入ると自分が寝起きする納戸に向かう、
布団の中に入り込むが、目はギラギラとし、うす暗い天井を睨んでいた。
何でアソコで浴室に入れなかった、入れば事は簡単だったのか其れとも・・。
自問自答するが答えはどちらとも茨な道かと思え出す。
(如何し様このままじゃいけん、何とかせんと拙いわ・・)
考えるが何が良いのか、従うほうが気楽なのかそれ以外何か有るんだろうか、
と長い時間眠れないでいた。
【何さ小娘じゃ在るまいし、子供の為も有るぞ、お前一人ではいきては行けん、
娘の為にも此処は我を張らずにのう】急に幸子さんの声と顔が浮かんだ。
(そうか、其れなのね、私は一人の女としては考えて居なかった、此れからの
事も有る、あの人に縋るしか沙織は立つ場所が無くなっていたと知らされた。
 漸く自分の居場所が此処しかないと知る、今まではそうじゃ無かった、
娘と此処を出ようとしていたのだ。
今は如何か、くどくどと悩んでいたのが馬鹿みたい、
今は進む道は一つしかないと知らされる。
 沙織はゆっくりと立ち上がると納戸から出て行く姿が暗闇の中で
辛うじて見えた。

              つづく・・・・。