望愛小説103弾《獣が道を造る・・5》

 六月に入るとここ等は暇、其処は田舎では癒される時期かもしれない、
やがてうっとしい梅雨が来る前と思える。
「うん・・」裕太の携帯に電話が来た。
「はい・・」見知らぬ番号だった。
「あのう田中裕太さんの携帯・・」「はいそうですが・・」
「私二つ谷を越えた所の美津ですが・・」「美津さん・・」
「ご存じないかも、でも電話した」「はい、其れは良いですが何か・・」
 電話で意外な事を聞かされる。
「え、ではあの山根紗月さんのお母さんですか・・」遂に相手が見えた。
「何か僕に・・」「来て下さらないかしら電話では中身が言えないし」
「良いですよ、三十分後なら伺えますが・・」
電話は其処まで、裕太は意外な人からの電話だった。
 紗月と二歳年下の女の子、今は大阪に出て居る筈と思いながら支度して
車に乗り込む。
「あ、そうだ・・」一度家に戻り小さな箱を抱えて車に戻る。
白壁が目立つ家、高校に通う中で道上の家は目立っていた。
「今日は・・」「ま~無理言ってすまんね」「いいえ・・」
挨拶をして玄関から家の中にと入る。
「なんと・・」初めて家に来た裕太は居間を見て綺麗に整頓されている
のに驚く。「綺麗にしんさって居られる」「あらら、褒めるの・・」
紗月ちゃんと似ていて綺麗な母親だった。
 コーヒ-を出されて座る。
「何か・・」「待って、話はする」前に座られる。
此処は夫は広島に仕事に出て居られると聞いている。
「あのね、あんた広島によういきんさるじゃろう」「そうです」
「じゃじゃ、頼みが有るんよ」「何です」
其処から話し難い事なのか間が開いた。
「何か広島の事・・」「え、あんた・・」「何か有ったん」
「うん、そこなんだけどね」またも中身を言われない。
 漸く話をされ出す。
「え、じゃお父さんの事・・」「そうなの、人には言えんが、あんたは広島
に仕事でいきんさろう、其れで聞いている」「お父さんが如何したん・・」
「おかしいのよ」「おかしい・・」「そう、この間も戻ると直ぐに帰るし、
田植えも二日だけよ」「・・」「そんでね、娘が其れは可笑しいと・・」
「・・」「ねね、あんたにお願いがある」「何でしょうか・・」
「あんた広島にいきんさる時、あいつの事気にかけてくれんね、いやね、
女が居るならそれでもええけ、知りたいだけ」「え・・」
「もう其れほどしがみ付くほどじゃ無いし」「ええ・・」
「だって、あいつと出来たんは事故よ」「事故・・」
「そう、酒を飲んでその勢いで・・」「あらら・・」
相手は山根美津と言い、ここ等じゃ綺麗な人と有名な女性だった。
聞けばその時身籠りそのまま流れで結婚、出来た結婚だとは知っている。
 「お願い、ねねなんでも聞くから調べてくれんかね」「ええ、僕がか・・」
「頼みます、証拠だけでも・・」「証拠・・」
「そう、二人で居る時の写真が欲しい」「ええ・・」
呆れる顔を裕太はしていた。
「でも二人の写真て如何するん」「あのね、娘がいうには既に部屋にいると」
「え、本当に・・」「部屋に行った時感ずいたって」「・・」
「それでね、マンションから出る時は一緒のはず」「何でです・・」
「だって相手も同じ会社だと思える」「あらら」そこまで聞いてしまう。
「なんでもするけ~、証拠が欲しいの・・」再度懇願される。
「でも・・」「裕太さん、仕事荷を降ろすと何時くらいに為るの」
「それは七時過ぎかな・・」「じゃ其れから行けば間に合う・・」
「でも・・」「お願い・・」「じゃ、奥さんがいきんさいや、携帯で写メ
取れば良いが」「え、私が・・」「それが確かでしょう、僕が見るより」
「そうだけど」「何時でも行けますよ、月曜日と木曜日なら乗せますが・・」
「あ、そうよね、じゃじゃ行く」「本当に遣るの・・」「遣る、お願い」
そんな成り行きで美津さんを車に乗せる事となる。
 二時間居て解放され家を出る。(なんと浮気か、人の事は言えんが・・)
裕太にも其処は言える。
 六月七日未だ夜が明けない午前四時前、裕太の家に軽が庭に来る。
婆ちゃんには事情を話している中,美津さんは婆に何度も頭を下げ挨拶、
トラックの助手席に乗られる。
 「ねね、御免ね、確認だけはしておきたいし、あ・この間のお菓子
美味しかった、広島でかいんさったん」「うん・・」
「じゃ今回も買うから教えてね」そんな会話をしながらトラックは走る。
「如何しんさるん」「そこね、先に現場に連れてって、其処に美津は残る」
「え・・」「だって何時出て来るかも、荷を降ろされたら来てくれない」
「そうか待ち伏せか」「ねね・・」「良いですよ」
裕太は其れは賛成、現場で張る事が嫌だった。
 市場には五時過ぎには毎度行く、荷を下ろす時間が決まっていたのだ。
幸か不幸か相手の部屋は横川、マンション前で降ろすと裕太は市場に向かう。
 そして一時間荷卸を済ませ横川に行くのは未だ早い時間、
なじみの喫茶店で時間潰しする。
八時過ぎに美津さんを降ろした現場に向かう。
 運悪く雨が落ちていた、其れでも美津さんは現場に居られる。
「美津さん・・」「ああ、きんさったか・・」「如何・・」
聞くまでも無い、目が真っ赤だった。車に乗せると裕太に構わず泣かれる。
「・・」無言で運転する裕太、話はしないが結果は判る相手だった。
 「帰りますか・・」「・・」返事の代わり頷かれる。
こうして戻る中,車内は重苦しい空気、互いに会話は無い、
其処は理解出来ていた。
帰路の一時間半は地獄そのものだった。
 送り届けて流石に今回は裕太は疲れた、
婆も何も聞かないけど孫の裕太を見れば一目で読める。
 一週間後又も美津さんから電話が来た、
家に来て欲しいと今回も懇願される。
裕太は軽で美津さんの家にと出向いて行く。

                   つづく・・・・。