望愛小説103弾《獣が道を造る・・12》

 七月二十二日、朝から裕太は大忙し、其れは真弓さんが車に乗れないと
朝から報せが来た。
慌てて、予備人が無い、裕太が代わりに車で向かう事となるが、
いやはや初めての事、美津さんが怒る様に説明をされるが、聞く方の裕太は
とんでもない難しさ、売るとその金額を携帯みたいな器具に打ち込まないと
いけない、其れは在庫調整にもなるから、それは三人が使いこなしている。
 何とか習い時間が過ぎて漸く裕太は車を動かす。
向う先は真弓さんが受け持つ地域、しかも三か所廻らないといけない、
午前十時には一番奥の部落、二時間後には冠山の麓の集落、
午後二時には手前のでかい集落と汗を掻きながら判らない事だらけ、
携帯で美津さんに聞いたり、買い物をされるお年寄りたちが笑いながら裕太
頑張れと囃し立てられる。
何とか場所を回り売った後店に到着、其処でも冷やかされるが、
本人は其れ処じゃない、後始末にも汗を掻かされる。
「美津さん、こりゃ~大変だが、暑いし」
「そうよ、柔じゃ無いが、其れにねお年寄りの体の具合も気にせんと行けん」
「なんと其処までか・・」「ええ、其れが此の仕事のメリットよ」
「恐れ入りました」本当に一日だけでくたくた、夜中に漸く家に戻れた。
婆が大笑いされて食事を食べる。
「そうだ、あのな真弓さんの夫が転院じゃと」「え、何其れ・・」
「うん、病院を変わった」「え、何処に大朝だろう」
「それが手に負えんと、そんでな広島の大学病院・・」
「あ、じゃじゃ遣れんのか・・」「大学病院じゃろう、誰もがそこに行くと
後はのう・・」裕太は食事中で箸を止めて固まった。
聞こえは悪いが誰しもが病院を変わる事は良い事とは思わない、其れは其処の
病院で梃子に合わないと判断されるからだ。
つまり終着点が其処だと誰もが思う、裕太もそう感じていたのだ。
「可愛そうに・・」「・・」
婆は其れに返事せずにやけ酒か、ビ‐ルをグイグイ飲む。
 七月二十四日、夕方真弓さんが家に来る。
婆は病院の事は何も聞かなかった。
「ね、知っているでしょう」「え、何・・」「もう心配かけたね」
「ああ、病院か、で如何なん・・」「・・」
「そうか、聞かないね、頑張りんさいや」「うん・・」力ない返事を返す真弓。
「これ、休めや、裕太こき使うな」「え、そうだな、もう休みんさいや」
「もう、する、動いているほうが良いの・・」
そう返事されると後は何も言えなかった。
 九時前に車に野菜を詰め込むと居間で一休みする。
「真弓、体が大事じゃ、疲れて居るなら来んでも良いぞ」
「婆ちゃん、特別扱いは好かん、要らないの・・」
「え、え~そうじゃ無いがねわしは・・」「判っている、来たいの・・」
「はいはい、飲みんさい」ビ‐ルを婆が渡す。
「え、え飲んだぞ・・」「あ、何でよ飲むわ・・」「ああ、車が・・」
「ひや~忘れていたが・・」真弓さんが久しぶりに笑顔で叫ばれる。
「もう飲んだがね、良いわ飲んで遣るが・・」一気に缶を飲み干された。
「豪快じゃが、もう一本かね」「はい、頂戴」
苦笑いしてみる裕太、婆が大笑いする。
「明日は行くんか・・」「初めてだし顔だけでも」「そうか裕太乗せて行け」
「え、良いけど朝が早いぞ」「あ、そうや、ねね乗せてよ」
「良いけど朝が早いし見舞は八時からだろうが・・」
「そうだけど、真弓は一度広島の、市場見たいし、裕太さんの仕事も見たい」
「ええ・・」「だから連れてってよ、戻りは何とか考える」
「戻りも載せるが、僕は広島で時間潰せる」
「じゃじゃ、お願い・・、ねね婆ちゃん良いでしょう」
「良いとも、付いて行きんさい、帰りもな」「有難う、電話する」
縁側に出て電話されている。
裕太は其処で婆の顔を見た、頷いて笑われる。
 「義母さんが御願いしろといんさった」ドタンと座り婆を見てビ‐ルの催促。
「じゃ、飲んだら寝ろ、朝起こすからね」「うん、婆ちゃんと寝る」
「ええ、こいつ」婆が破顔で頷き抱き締める。
 こうして朝早く二人はトラックで家を出た。
「早いんだね、此れじゃ大変だがね」「馴れているよ、早い方が道も走り易い、
行きは高速だし」「初めて走るのよ、上は走った事無い」
「そうか大朝から乗ると一時間も要らんぞ」「そうなんだ、良いね早く乗ろう」
「ええ~・・」二人は仲が良いだけ話が他愛無くても楽しかった。
 午前五時前に市場に到着、仲買人の顔見知りに冷やかされながら荷を降ろす。
いつに無く美人が来たからか、仲買人の数が多過ぎ、中には手伝う男も出て
大騒ぎだった。
「おい、裕太、お前が来んでも良いぞ、この女性がきんさるなら、俺が全部品物
を買うが・・」その声に皆が大笑いする。
そんな中で真弓は生き生きとした顔で動いてくれる。
 なんと荷下ろしが早い事、何時もなら四十分もかかる時間がニ十分で終えた、
二人は市場内の食堂で朝食を並んで食べる。
入れ替わり立ち代わり髭ずらの男が来て裕太を冷かして行く。
「裕太さん人気者じゃね」「阿呆、其処は違うぞ、今日はあんたが主役だがね、
皆(^^♪見たさに覗かれるんだぞ」そんな会話も楽しい、喫茶店でも同じ、
荷を運んで集まる仲間が其処にたむろしているから、其処でも真弓は人気だ。
 八時過ぎ、市場を出て大学病院に向かう、
「電話してくれんさいや、此処に来るからね」「・・、お願い、行くね」
言われる顔は先ほどと大違い、其処は裕太も理解出来ている。
重い気持ちで裕太も見送る、昼過ぎに電話が来る、ちょうど帰る時運ぶ荷物を
載せた後、車を病院に向けて走る。
 真弓を乗せるが、来た時より別人、落ち込まれているし、
其処を聞けないもどかしさが有った。
「帰りは下を通るが、実家に寄りんさるか」「・・、ううん寄らない」
「そうか・・」戻る車では会話は進まない、仕方が無い事情、裕太は気を使い
其処は黙って運転する。
 可部に入ると真弓が起きて裕太を見た。
「寝て居れば良いが・・」「ううん、ねね可部の家に寄ろうか良いでしょう」
「ええ、何で知っとりんさるん」「えへ、婆ちゃんから聞いているもん」
「ああ~、もう喋り過ぎだぞ婆ちゃん」
「良いじゃない良い人みたいだし、真弓も会いたい」「良いけど・・」
「じゃじゃ、何かお土産買おうよケ~キ」「はいはい・・」
 いつもより遅い時間だが,可部の家の横の空き地に入る。
「ま~遅いじゃないね、あ・・、此れは失礼、女性同伴かね」
「誤解じゃが、この人の夫が大学病院に入院しんさったから、見舞なんじゃ」
「そうかね、あんたきんさい綺麗な女性じゃがね」
美代は裕太を置いて真弓の手を引っ張り家に入る。
(く~何処も俺はのけもんか・・)苦笑いしながら後に従う。

            つづく・・・・。