望慕小説105弾《夢中を彷徨う・・15》

 いやはやとんでもない女性だった、話は真商売柄か上手い、
聞くとここ等は山賊や野武士の集りだと笑われる。
古くから、落ち武者や平家崩れの人が逃げ込んで来た地域と聞いた。
其れが今までも遺伝が残り豪快だとも聞かされる。
人口は高速道の反対側と合わせると二千五百前後、谷は至る所にあり、
正しくよく此処を選んだ事だと感心すらする。
「じゃ、此処の方々は意欲は有るんですか・・」
「有るから困る、此処は郡上、白川、果は高山と動くには良い場所に最近は
為った、それが災い今じゃ里を守る年寄りしかいなくなった」と言われた。
「其処は何処でも同じでしょう」「見た目はね、でもね内面は違うよ・・」
「如何違います・・」「自分の事しか考えん、でも中にはそうじゃ無い人も
多くなりつつある・・」「その意味は・・」
「血じゃが、血も長年経過すると他からの血が混じる、そうなると遺伝から
生まれる引き継ぐ中で血が混じり合い、今ではそうも言えない様になって
来たけど、未だ先祖からの遺伝は残されている、だから使いようでは此処は
変われるが、いかんせん、そんな事を導く人が出て来ない、其れで此処も
やがて誰も居なくなる運命、直ぐ傍に出れば食えるほどの仕事は有る、
其処が人間を柔くして行くんだぎゃ・・」「成程・・」
「だからじゃ、あんたが此処に足を踏込んだなら、利用すれば良いがね」
「ええ・・」「あのな、血気盛んな事は男だけじゃ無いがね」「ああ・・」
「そうだろう、血は男にも女にも在ろうがね、此処は他と違うのは其処と
見ている、だが其処を掘りこさないで来て居るんだ、悔しいじゃないか、
こんな地は日本では珍しいぞ、あの瀬戸内海の海賊、近江の人を押しのける
商売や、其処らの地域は少しでも残り育って来ている、じゃ此処はと言えば
情けないが未だ日の目を拝めていないだが、なな、何とかし様よ,沙保里を
使え・・」「ええ・・」
「良いね、名古屋に戻っても良いけど、此処が気に為るなら暴れて見てよ」
「貴方・・」「沙保里よ」「沙保里さん・・」
「良いね、あんた牛如何にかしようか・・」「え・・」
「私は此処らじゃ人脈があるのよ」「・・」
「だから、考え次第では力には為れるがね」
そうも言われ、二時間費やしてそんな話までしてしまう。
 (フ~・・、驚いた・・)其れだけしか言葉に為らない、色々聞かされたが、
総ては飲み込めていないけど、面白い話を聞いたのだ。
 車で、今度は当てもなく回りを廻る、高速道の反対側も走る、
言われた通り谷は至る所に存在、見た目は判らないが聞いて居る話をもとに
見ると、すたりつつある谷も見受けられるし、既に谷は見れるが、
其処に有る筈の民家は見当たらない場所も幾つか有る。
「なんと、言われる事が見える」二時間かけて回ると、お腹が空いて来る。
 午後四時、又も喫茶店に寄る。
「御免お腹が空いた・・」「あはっ、良いわカレ-なら有るけど夕ご飯前
じゃないね」「でも空いたぞ」「良いわ、少しにしなさいね」
笑いながら用意してくれる。
「結構広いねここ等・・」「え、あんた凄いじゃ、見て回ったんだぎゃ・・」
「うん、少しなでもこれって奥は如何なっているん・・」「奥、北かね・・」
「両方・・」「似たような谷があるけど、其処は目を覆うような現実」
「成程・・」「だから困っている」そう返事してカレ-を腹に詰め込む。
「あんた、待って、此れから如何するの・・」
「うん、招かれている家が在るんだ」「何処・・」「山根雅代さん・・」
「・・、あんた・・」「え・・」「凄いがね、もう見つけていたんか・・」
「ええ、そうじゃ無いが、昨夜来てな始めてだぞ」
「そう、じゃ良いぞあんた行けや、後で何とでも出来る、そう雅代さんか、
良いが其処人手も有るし、娘・・、あ~あんた~」「違う違うが・・」
「あはっ、そうかね、あんた凄いぞ、いいや凄いのは貴おばちゃんか、
遣るね、良いわソコ行け・・」「行け・・」
「ああ、良いぞアソコは、なんとそうかね、貴おばちゃん凄いが・・」
何度も頷かれた。
「じゃ、行くとアソコは肉か、ワインは電話して置くから店に寄ってね」
「え・・」「良いから、お土産考えている、良いわ後でね・・」
電話をどこかにされて、頷かれる。
 「明日は其処に居座ってて・・」「ええ・・」
「後の事は貴おばちゃんと相談する」「ええ~・・」
益々驚く澄人、だが何でか嫌な気が湧いて来なかった。
煮込まれたカレ-を頂く、「じゃ、戻る途中、中村屋よ・・」
「OK」手を振り店を出るが笑えた。
 「今日は・・」「往々、来たかね,あはっ、とらまったぎゃね、
此れ持ってけや・・」「え、もう用意できていたんね」
「ああ、アソコは魚を食べさせんと行けん、其れに料理もろくには出来ん
ほど忙しい仕事じゃが、中にレトルト類が入れて有る・・」「有難う・・」
「頑張れや・・」「ええ~・・」苦笑いして店を出た 。
 夕暮れ、未だ早いと思い、向かう道を家の前を通り越し、あの蛍の谷にと
向かう、未だうす暗く為り出した時間、車を止めて、少し考えた。
 「うん・・」何と車の窓傍に仄かに灯る物を見て起き上る。
「ええ~~~・・」既に暗くなった谷は、息を呑んだ。
何と車回りに飛び交う仄かな光の軍団、夢の中に舞い込んだように思える。
感激して車から降りずに、其の歓迎ぶりに感歎、最高に癒される瞬間だ。
小川から舞上がる蛍、本当に幻想、夢幻、絢爛、唯々魅入るだけ・・。
 どれくらいいたのか、其処を出る時は既に蛍の谷に為っている、
感激が収まらない内に其処を後にし道に出ると、目当ての家が直ぐだった。
「あ~遠藤さん、遅かったがね」「ええ・・」
「だって、電話が来てから随分と時間が・・」「ああ、ホタル観賞ですよ」
「ま~、じゃ・・」笑われ歓迎されて家に入る。
既に板間の「台には食事の用意が出来ている。
「澄人さん・・」「え、あんたは雅己ちゃんか・・」
「ハイ、よう来てくれたわ、牛臭いけど辛抱してね」そう言われる。
中村屋で別に用意してくれた、仏前に備物を持って仏間に向かう。
 「お母ちゃん・・」「うん、出来たお人じゃね・・」
親子で手を合わせ座る澄人の後姿に感激される。
 夕食は肉、当たった、でかい厚みのステ-キ、其れが飛騨牛だと聞かなく
ても分かる、本当に美味しい、肉が少し硬いが、其れが特質だと知っている、
噛んで行く内に肉味が増して来た。ワインを飲みながら三人で歓談、
此処も明るい家族、今は二人がだ、此処は四人家族、既に父親が五年前ガン
で亡くなられて居る事は聞いて居た。
 食事中で忘れていた封筒を出すと、笑われて受け取ってくれる。
何もかもが上手い、中村屋で聞いた、手が込んだ料理は出来ないと知って
たが、今夜はそんなことは無かった、余計迷惑をかけたと澄人は思う。
 話を聞くと此処では子牛を買い育てるだけと聞かされた。
「え、では親牛は・・」「お父ちゃんが死んでから居ないがね」「え・・」
「世話が大変・・」「では子牛は何処から・・」
「この奥にある家から買うんだ・・」「え、では未だ奥に有るん・・」
「うん、そこもやがてなくなるから心配しているんだが」「無くなる・・」
「ボヤカレテいるが、年もそこそこだし子供が出て戻らんと・・」
悲しそうな顔でそう言われる。
 急に白ワインの渋味が喉につっかえった。

           つづく・・・・。