望慕小説105弾《夢中を彷徨う・・19》

 朝風呂に向かい、戻ると朝食、今朝からまたも舞ちゃんに踊らされ続ける
二人だった。
 食事を終えて、コ-ヒ-を飲みにラウンジに向かい、其処で話をするが、
いかんせん舞ちゃんが独占、其処を見て美佳さんが笑う。
「え・・、何か・・」「ううん、舞を見ていると可笑しくって・・」
「何でです・・」「だって母親と違うし、私は晩稲で何も知らなかった、
優しい男に言い寄られ、断る勇気もなかったし、ずるずると、相手の本性が
見れるまでは従ってきた、でも今は如何かな・・」「・・」
「此の子を見ていると、血は父親から来ている」「そうなんですか・・」
「ええ、でも性根は同じでないほうが良いけどね・・」苦笑いされた。
 旅館を出ると車に乗り込む、澄人が勝手に走り出すが、美佳さんは何も
言わない、娘が何処に行くんと聞いて来る。
「そうだね、此れからの事を考える旅にしようか・・」「考えるん・・」
「そう、舞ちゃんの将来もある事だしね」「え、将来って・・」
「先の事、舞ちゃんの夢が叶うようにね・・」「夢か・・」
「そう、大事だぞ・・」「先の事やんか・・」「でも大事・・」
「そうなんかお母ちゃん・・」「そうよ・・」そう返事される。
他愛無い会話だけど中身は重い、今の美佳には胸をつまされる言葉だ。
 「何処に行かれます・・」「良い機会だから観光でもしますか・・、
此れからの事は考え乍らで如何です」「貴方・・」
「出会いも何かの縁です、舞ちゃんの事も有るしね・・」「・・」
返事は戻らないが嫌だとは言われなかった。
 車は国道八号線を北上、砺波を通り過ごして富山方面にと進んだ。
「貴方・・」「はい、舞ちゃんにトロッコに乗せます」
「ええ、トロッコ、何其れ・・」そこから説明を始めながら走る。
 「ま~じゃ黒部峡谷ですの・・」「そう、駄目ですか・・」
「駄目じゃ無いけど行けるの・・」「ええ、ナビが有りますよ」「・・」
返事を返す代わりに拗ねられる。
舞ちゃんは既に助手席で間を見ながら感動、本当に良い子だった。
 昼過ぎ、何とか黒部ダムに近づいてきて、駅前で軽い食事をとりながら
舞ちゃんに此れからの事を話す。手を叩いて喜んでくれる。
トロッコに乗り込む、幸い梅雨真只中でも今日は快晴、
トロッコはガタンゴトンと走り出し、右側の渓谷を見下ろしながら
トンネルを何度も潜り、何とか、駅に降りて其処からトロリ-バスで又も
トンネルを走る。
 ダムに到着、其処で舞ちゃんが異様に興奮、大自然と、ダムのでかさに
驚愕、澄人も美佳も驚愕。
記念写真を撮りまくり、専ら観光案内者、其れでも良いとさえ思える親子。
 二時からの出発は計算違い、あまりにもダムで時間を過ごした所為で
宇奈月駅に戻れたのが五時手前、車に乗り込もうとすると・・、
「お兄ちゃん疲れた・・」「そうか、じゃ車は無理か・・」
「良いけど、何処に行くんくらくなるよ」「だな、じゃ又温泉に入ろうか」
「ええ、有んの・・」「ああ、此処は有名な温泉が有るよ」
「良いの、金有るん・・」「まかせとけ・・」
二人の会話を聞きながらも美佳は口出しなかった。
 此処は黒部川添いに温泉がある、有名だし一度は行っても良いかとは
考えていたのだ。
駅前で観光案内所で宿を探す、手ごろな部屋があると聞いて決めた。
直ぐに車を旅行客用の駐車場に止めると、三人は目の前の旅館にと入る。
 「ま~、今度は清流ね・・」「え、そうか湖じゃ無いし、川だ・・」
澄人は部屋の窓から見下ろす川を見ながら最高だと感嘆・・。
舞も母を連れて浴場に向かう、澄人も今回は同行、自然とそうなれる間
には為れた。
隣の女湯から舞の甲高い叫びが聞こえだす、誰かに遊んで貰えている。
「良いぞ、そうかこれからの事が・・」
考えると直ぐに脳裏にある人の姿が浮かんで来た。
 部屋に戻ると、夕食には少し早い、ビ‐ルを湯上りで飲み始める。
舞は又も澄人の膝上で座り甘えてくれる。
「済みません、又散財させた・・」「良いですよ、旅中、何れ出て行く金
ですから、気にしないで下さい、楽しんでね」「・・」頭を下げられる。
夕食を食べる中、舞は澄人の面倒を見てくれる、反対だと笑うが、
舞は構わず澄人の世話係り、それが可愛いから困る。
 何とか疲れたのか寝てくれた、「此れからは大人の時間ですね・・」
「・・」無論返事など帰らないが承知、ビ-ルを飲みながら二人は居た。
「あのう、私たちを如何されますの・・」「ええ、意味が・・」
「旅先ですよね」「え、そうなりますけど・・」
「じゃ、このご恩は如何返せば良いの・・」「ええ、其れこそ意味が・・」
「だって、金も大変な金額よ」「だから・・」「ええ、だからですの・・」
「ええ・・」「呆れた、私困る」「困りますか・・」「ええ・・」
そんな会話も長くは続かない、澄人が笑い飛ばすから相手も少しは安堵
されたのか、ビ‐ルを飲まれた。
 「お仕事の件・・」「ああ、其れは向こうに行ってから貴方が見て決めて
下さい・・」「ええ・・、何で・・」
「だって、仕事と舞ちゃんの事が大切なんですよ、だから何も言わずに
行きましょう、相手と話された後でも良いじゃないですか・・」
「其処が駄目なら・・」「それは其れ、又考えましょう」「え、貴方・・」
今度は呆れ顔で睨まれる。
 しかし昨夜とは少し様子が変っていた。
「貴方、美佳を如何したいの、もう如何でも良いからついて来たけど、
このまま放り出されても文句は言えない」「ええ・・」
「黙って聞いて下さい、美佳もう疲れていたんです、だからあの時合わない
とどうなっていたかははっきりしています。アソコで何処で死のうかと、
悩んでいたんです。私が不甲斐無いから子供まで、其処が引掛かり決断が」
「良いじゃないですか貴方が今現在生きている、其れだけで良いじゃない、
此れからはこれからですからね、今はのんびりと疲れを癒してて下さい」
「貴方・・」目に涙を浮かべて見詰められた。
 小顔で可愛い、いいや美しい顔、しかも浴衣から想像出来る姿は、
最高だろうと確信できる相手、此処迄なんで連れまわしたのかが疑問、
だが今はっきりと、自分が描く道を見え出してくる。
「仕事は伊豆に行ってから考えましょう、無理なら名古屋の僕の部屋で
少し休んでいてください・・」「ええ、貴方・・」「澄人ですよ」
「澄人さん・・」「はい・・」「貴方、・・、・・」「え・・」
「ううん、泣けてくる」「・・」今度は澄人が黙った。
「あのね、美佳はそんな値打ちなど無いし、其れに男に言い寄られ付いて
出る馬鹿な女ですよ」「・・」
「それを何ね、優しいからと言って、美佳を悩ますなど卑怯よ」「・・」
「ねね、何とか言って下さい、何を如何したら良いの美佳は・・」
「何も無いけど・・」「それが怖いのよ」「え・・」
「あのね、只より怖いものは無いでしょう・・」「ええ~・・」
「そう言われるでしょうがね、美佳は如何すれば良いかだけ聞かせて・・」
「伊豆に参りましょう・・」「え、其れだけ・・」
「ですが、何か・・」「・・」今度は美佳が黙る。
 おかしな会話はまだ続きそう、その理由は、美佳がビ‐ルを煽るように
飲み続ける姿に夕べもそうだったと知らされる。

                 つづく・・・・。