望慕小説105弾《夢中を彷徨う・・20》

 だが今夜は少し違う、美佳さんはビ‐ルこそ飲まれるが顔は未だまとも、
話も筋が通る。
「ねね、このままだと困る」「え・・」「だって娘も居るし、金は嵩むわ、
だからね、如何すれば良い・・」「もう、何も無いし要らん」
「ええ、貴方、嘘は駄目、汚れているから・・」「ええ・・」
「そうとしか思えない、こんなにして頂いて、美佳は如何にも出来ない」
「良いじゃないですか、考え過ぎですよ」「辛い・・」「え・・」
「もう辛いわ、いっそ抱いて・・」「・・」「ね、貴方辛いから・・」
「駄目でしょう、そんな考えで抱かれても虚しいだけですよ」
「それでも救われる、お礼が返せないし・・」
「其処が嫌だな、何事も見返りですか、相手次第でしょうけど僕はそんな
考えでは求めたくないし・・」「貴方、でも事情が・・」「其処も嫌です」
「・・」騙られる。
 思えばズバリ的中かも知れないが、此処は真反対の事を口にする、
其れで自分にブレ-キを懸けようとしていた。
「旅の空、あなた次第で美佳も多少気持ちが、このままじゃ娘を大事に
してくれる貴方に、苦しい」「・・」「ね、何か言って下さいな・・」
「何を言えばいいんです・・」「え、貴方酷い・・」
「酷いですか、じゃそうしておきますか・・」「貴方~・・」
目に涙を浮かべられ睨まれた。
 「では何か求めれば良いんですね」「そうなりますけど・・」
「そっか、じゃ夢でも良いですか・・」「良いけど、どんな夢・・」
「夢は夢、適うなんて思いもしない事」「え、其れどんな夢・・」
「言えないから夢なんです」「もう、言葉遊びは堪忍して下さい、辛いし、
夢って美佳で叶えられますの・・」「え、そうなります」「何かしら」
「無理でしょうから良いですよ」「ま、未だ聞かせて頂いて居ませんけど、
何・・」「・・」「ね、何か言って叶えられるならする」「無理ですよ」
「するから・・」何とも言えない程二人は強情、其処は澄人は負けている
けど、話を終わらせたくなかった。
夢は夢、憧れは夢と同じ、だから言ったまでだが今は敵うかと思い始める。
「何か、言わないとご返事が出来ない・・」
「じゃ、此れから数日間、旅をして伊豆に入りましょうか、此処から何処
かに寄り、そうして向かう先は伊豆で如何です」「良いけど、又お金が」
「其処は無視で良いじゃないですか、こうして他愛無い事で言い合うのも
最高・・」「いけずね、女性を困らせるのね」「そうなるんですか・・」
「ええ・・」「じゃ困らせ序にお願いが有ります」「何か・・」
「今夜は良いけど、次泊まる場所ではお願いしたい事が有ります」
「何・・」「其処は後で今はとてもじゃ無いけど言えない」
「ええ、そうなの言え無い事、美佳に対してですか・・」「はい・・」
「あら、言えない事、何かしら・・」
「考えて居て下さい、僕は一度風呂に行きます」「え・・」「御免・・」
何と一人で部屋を出た。進めない問答に疲れた身を湯に浸らせて、
思い浮かべるのは美佳さんの姿だった。
 どこまでも体たらくな男澄人、でも本音は言わない卑怯者、
そんな思いはしていた。
 部屋に戻ると、美佳さんは横に為られている、隣の部屋には三枚の布団が
並べられている、其処を見て部屋に戻るとビ‐ルを飲み、
窓からテラスに出て川の潺と蛙の合唱を耳にして、最高な夜風に身を預ける。
 手すりに縋り、川音を楽しんでいた。
「貴方・・」「あ、美佳さん、起こしたの・・」
「ううん、寝て居ないし、此処良いわね」
「ですね、最高ですよ、お風呂も良かった・・」「一人でね・・」
「ええ、嫌味ですか・・」「そうよ、言わないとお返しが・・」
「あはっ、飲みますか・・」「持ってくるね」
場所はテラスに変わるが、二人は又も缶ビ‐ルを握り夜風に当たる。
「ねね、顔を見ないから、先ほどの話決着点けましょう」「ええ・・」
「ね、お願い、なんか楽しくなりそうよ」「ええ・・」驚いて顔を見た。
「だって、何かとワクワクしているのよ、こんな私でも抱いて下さるのか
なとも・・」「ええ~・・」「そう思うのは美佳の勝手でしょう」
「そうだけど美佳さん・・」「こんな旅はした事無いし、数日前の私からは
考えも出来ない事、この先はどうなるのかと悩んで彷徨ってたのにね」
「・・」「それが如何、今ワクワク感が増して来た、美佳を美佳を抱いてと
叫びたいのよ」「・・」「でも相手は其処を言われないまま、何か夢がある
とだけ、何かと考えるじゃないね、抱くなら構わないし、喜びがあるなら
尚良いけど、欲張りよね美佳は・・」「・・」
「ああ~言っちゃった、胸に痞えていたんよ、此れで気が楽に為れる、
こんな体惜しくも無いけど、其れじゃ相手に失礼でしょう、今回は心底相手
に喜んで貰う積り、気を入れて縋りついて、其れから、ああもう大変・・」
「・・」そんな事まで話しをされる、酒と旅先だからか、そう言われた。
 「気持ちが良い風ですね、明日も天気かな・・」「貴方・・」
「如何です、明日は何処に向かいますか・・」「え、貴方・・」
「明日は、大町から長野を通り、中央高速に乗りましょうか、其れとも山梨
から富士山も良い、其れなら箱根からが良いけど其処は翌日にしますか・・」
「ええ~、貴方・・」「駄目ですか・・」「貴方、其れ本気・・」
「ええ、嫌ですか舞ちゃんが喜ぶと思うけどな・・」「貴方・・」
感極まる美佳、突然澄人に縋りついた、狭いテラスで逃げ場が無い、
澄人は受け止めた侭動かなかった。
「貴方、最高よ、美佳を焦らして弄んで、女の気を狂わせて知らん顔・・、
憎たらしいけど最高よ」しがみついたままそう呟かれる。
横からしがみ付かれているから左手が諸に相手の胸の谷間に挟まれていた。
「美佳さん、何も言わずに其処も考えずに、のんびり伊豆に向かいましょう」
「貴方は其れで良いかも、こんなにしてくれて恩返しが返せないじゃない」
「返せなくても良いし其処は思っていない・・」「其処、何処ね」
「え、恩返しですけど」「良かった、じゃ美佳は女よね、如何そこだけは
ハッキリして下さいね」「ええ・・」「ねね、如何なん・・」
「女ですよ、最高にそう思いますけど・・」「本当・・」
「ええ、神に誓い断言します」「大袈裟ね・・」
笑われる、其処に澄人がビ-ルを渡すとグイグイと飲まれる。
 「じゃ、勢いよく夢の一番目、願えますか・・」「何・・」
「お願いです、其処で浴衣を落として下さい・・」「えっ」絶句された。
「無理でしょうね、じゃ夢は諦めます・・」「・・」
「そうだよな、何処の男がそんな事言うか、此処に馬鹿が一人いた・・」
「・・」「さ、そんな事でした、夢は無残に消えたから、寝ますか・・」
「・・」返事が無いから、澄人は布団の中に入り寝る。
 一人取り残された侭の美佳、動けない、抱くと言われれば縋りついてと
思っていたが、浴衣を落とせ、思っても居ない事を耳にすると体が固まる。
変態、其れともあそこがゆう事を効かない、其処かも・・。
そんな事を思うが、今迄こんなに慌てて驚いた事は無い、
事も有ろうか抱くより裸と言われたようなもの、其れが衝撃で未だに身体
が動かない、美佳は笑い事も怒る事も出来ないまま、テラスに未だ居る。
 (なんて事、酷い・・)そう思うが、もう美佳はあの縋り付いた気持ちは
萎えて脳裏には残ってなかった。

           つづく・・・・。