望慕小説105弾《夢中を彷徨う・・25》

 (うふっ、此れが上手く行けば良いけどな、あの親子も頑張れるよな・・)
そんな事を思いながら砂浜で寝転ぶ、最高な瞬間はいつの間にか目を瞑り、
さざ波の音が心地良く眠りにと導いてくれる。
 「お兄ちゃん・・」「え、ああ~舞ちゃん、戻ったんか・・」
「うん、お兄ちゃんが心配でな」「あはっ、言えるがね、一人ぼっちじゃぞ」
「だから、可愛そうに遊ぼうか・・」「ううん、此処で寝て見ろ最高だぞ」
「嫌だ、汚れるがね」「そうか綺麗な服じゃね、可愛いよ」
そんなやり取りが今一番望まれる澄人、起きると既に車は車庫に有った。
 「如何でした・・」「見ての通り、置いて来た・・」「え。では・・」
「そうなのよ、店が忙しいから手伝うと言ってくれた」
そう母の玲華さんが笑顔で報告される。
「ねね、あんたは此れから出掛けようよ」「え、何処に・・」
「良いから付いて来て、舞ちゃん出掛けるよ」「え、又・・」
そんな返事をしながら三人は車で家を出る。
「どちらに・・」真っ赤なアウデイが似合う婦人、
「そうね、今から向かう先は色々と問題がある所」「ええ・・」
「だからあんたを連れて行くの、其処は女学校時代の後輩よ、と言っても年
は向こうが随分と若い・・」「・・」「それでね、あんたを紹介しようと
夕べ思いついたんよ」「思いついた、ですか・・」
「そうなるわ、此処で一人じゃ暇でしょうが、直ぐに出て行くのも気がかり
でしょう、見ていると、何とか遣れそうよ、美佳さん、仕事振りテキパキと
動かれるし、最高・・」「良かった・・」
「ええ、内も最高、人は総居ないわよ、しかも熟練でしょう、泣けるほど
ありがたいのよ」そんな会話をしていた。
 「え、ここ等は熱川・・ですよね」「そう、此処に合わせたい人が居るわ」
車は国道を走り、進む。
「ああ・・」「見えた、素晴らしい場所よ・・」
何と車が向かう所に瀟洒な旅館が目に飛び込んで来た。
その玄関に車は横付け、直ぐに仲居さんが駆け寄り、三人は車を降りる。
「ま~玲華さん・・」「菜摘、連れて来たよ」
「え、ああ~もう忘れていたわ・・」苦笑いされて中に入る。
 「・・、・・」絶句するほどの景観が目に飛込んで、海を一望できる、
しかも水平線に浮かぶ島が数島見え隠れしていた。
「此処でお茶を頂こうね・・」玄関を上がる先のフロアがお茶を飲む場所と
思える、其処には絶景が窓枠に仕切られて、まるで絵画を見ているような
現象を受けた。
「良いですね、此処は」「そう、三台先の先代が此処に惚れられたの・・」
「判るわ、最高じゃ無いですか・・」「そうなんだけどね・・」
そこから話が途切れる、お茶が出され其れを頂きながら目は爽快な自然を
見詰め離さなかった。
「お部屋に・・」仲居さんが案内をしてくれる。
 「キャ~素敵ね、ねお兄ちゃん凄い・・」「そうだな、海が綺麗・・」
部屋からも望めた。
仲居さんが下がられると、舞は庭に出て海を眺めていた。
「あのね、問題は二つある」「何か・・」「此処の先行きと女将さん・・」
「・・」「それでね、以前から相談を受けていたのよ」「え、じゃ・・」
「そうなの経営がはかばかしくないからね、景観だけじゃお客はね、代わり
映えが今じゃしない宿に為っているの・・」「・・」
「それとね、問題は女将さんよ」「え・・」「一人者よ」
「何と、じゃ旦那さんは亡くなられたんですか・・」
「もともといないしね、其処は違う、でも跡取りが欲しいと・・」「・・」
何か話が其処に向かうと察した。
この聞きたくもない話が勝手に玲華さんの口から出だす。
「ね~、聞いて居るの・・」「はい・・」「じゃ何か言いなさいよ」
「え、僕がですか・・」「他に誰が居るのよ、舞ちゃんだけじゃないね、
だから、考えてよね」「何をどこを教えて下さいよ」
「もうだからね、此処を何とかしたい事と跡取りよ」「ええ、二つも・・」
「そうなる、ね考えてよ」「玲華さん・・」「あんたで良いと思えたんだ」
「何でです・・」「だって、決めたら凄いけど、決めるまでは歯痒い、でも
其処は良いかと先走りが無いし、安全だしねえ・・」
「だって此処は手放したくない、私が買えれば良いけどお客商売はこりごり
だしね、其れで相談を受けていたんだけど解決出来ずにズルズルと・・」
「・・」「それで、あんたが来て、良いかなと此処に案内したんだ・・」
「余計ですね」「あはっ、そう言わずに、相手は最高な女性よ」
「ですから益々拙いと思うけど・・」「何で・・」
「あのね・・、ま良いや、そうですか・・」「あらら、投げやりね」
「聞いた最中ですよ、こっちも考えが有りますからね」「はい、御免なさい」
「変な謝り方ですね」「御免」何とも言えない相手、本当に扱い辛い相手だ。
 其処に女将さんが来られる。
(なんと言われる通り素晴らしい女性じゃ無いか、何で男がいないのか)
澄人は素直にそう思えた。
「少しは話したよ」「え、ではこの方が・・」「如何かなとお連れした・・」
「お姉さまとのご関係は・・」其れから麗華さんが経緯を話しをされ出す、
良い機会と庭に出て舞と景色を眺めていた。
「澄人さん、来て・・」呼ばれて部屋に戻る。
『お聞きしましたけど、大学は経営学とか・・』「成り行きでそうですが」
「そうですか、弟さん残念ですね」「ええ、其処は既に諦めているんですが、
なんと引きずりこうして関係が消せなくて・・」「あら、嫌味かね」
「玲華さん・・」「はいはい・・」「あらら。楽しそうね」
「うふっ、この人とは遠慮が無いしね、今は同じ馬の上で並んで乗っている
んですよ、落ちるのも一緒かな・・」「ええ、僕は落ちるの嫌だし・・」
「だから、捕まえているんじゃないね、あんたは同じ馬の上で居るの、判る」
「判りたく無いけど・・」「行けずな男ね聞かれた・・」
「ええ、仲がお宜しいね・・」「そうかな・・」
「舞ちゃん、お庭で遊んでてね」「はい・・」出て行く。
 「ところで、此れから此処を活かすには何が必要かと悩んでいます」
「今お部屋の活動はどれ位です・・」「五十を切ります、週末だけで何とか
凌いでいるんですけど平日が、此処は熱海と下田の中間でしょう、
しれているんですよ」「・・」
「それと、最近は行楽より趣味での旅行が多くて」「中身は其処ですよね」
「ええ、でも解決は難しいですよね」「其処か、何とか考える余地は有るぞ」
「ええ、あんた・・」「お母さん・・」「嫌だ、そう呼ばない約束よ」
「だったらあんた呼ばわりも駄目でしょう」「あらら、はい、澄人さん」
「はい、麗華さん・・」「いやだ~二人とも漫才じゃね」大笑いされる。
 「考えたけど、大事な問題です、直ぐとは行かないかも・・」
「ええ、其処は理解しています、此れからお付き合いもかねて、此処に来て
ください」「え、・・」「あんた、いいや澄人さん、来てと言われているのよ、
返事は其れだけ・・」「あ、其処は言い忘れました、今後とも宜しく・・」
「言えたじゃないね」「玲華さん・・」「はいはい」首をすくめて笑われる。
 澄人は一人で、旅館内を歩いた、本日も少ないお客と見えて、
忙しさは感じられなかった。
浴槽から宴会場、そうして一番のメインの玄関回りを見て回る。
一時間みっちりと廻り部屋に戻ると舞は寝ていた。
 添い寝される玲華さん、本当に四十過ぎとは思えない若さ、肌もそうだし
仕事柄そうなるのかと見惚れていた。
 其処に女将さんが来られる。
「あのう部屋の見取り図を頂いても良いでしょうか・・」
「是非、其れと私の電話番号も添えて置きますね、嫌でしょうか・・」
「いいえ、感激です」「あらら、じゃお渡ししますね」
メモを手に握らされた。
「では暫く考えてみますね」「お願いしますけど、無理な事なら良いです、
もう此処は諦めようかと・・」「ええ・・」
「だって辛いし励みが少ないでしょう」そう言われ、聞いて居ると、
本当に何とかしないと大変だと身に詰まされた。
「ではそういう事で・・」「約束は出来ませんの・・」「え、貴方・・」
「菜摘です」「じゃ、その事は・・」「お聞きして覚悟は出来ているんです、
旅館は後でもと・・」「菜摘さん・・」「はい・・」「・・」
澄人は何でこうもすんなりと向かわれるのかはっきりと読めて居なかった。

                 つづく・・・・。