望情小説110弾《獅子身中の獣‹二重人格›・・35》

           【悲痛の中でも新しき道を模索・・】

   平成十四年、亮太は既に二十八才に成っている、思えばこれまでも道のり
は険しくもあり、楽しさもあった。
無謀にも大学成り立てで起こしたゲ-ム会社、既に業界では押しも押されぬ
位置に君臨し続けて来た。
 その足跡も既に七年間を刻んでいる、思えば長き道のりみたいだが、
亮太には途轍もない走馬灯の中身,瞬く間に気が付けば八年を経過している。
その間、亮太が関係した女性達も自ずから年を重ねて来られていた。
郷の義母の晴子、学友の碧さんの家の大阪の松原の妙子さん、娘の美沙さん、
金に困り工面に走り回る中での出会いの晴美さん、其の仲介者の小百合さん。
そうして、芦屋の家を知り、その間に千里の家も知ると、亮太の二重人格も
コントロ-ル出来る様に為り出して来た。
 あの東大阪の八尾の家も然り、小百合さんの紹介で知り合うが、
其処が強烈極まりない家族、舞子さんや義娘の幸さんと小百合さんとが
なんと出来てしまう。
 其処から展開が様変わり、あの千里のご主人武藤紘一さんの家に婆様の
願で舞子を向かわせると気に入られ、二ケ月後に男女の中にと進んで行く、
其れも計算ずくの亮太の仕業、何もかもが其処で仕上げかと思えたが、
色々回りには有ったのだ。
 最初は碧さんと伸介の結婚と、二年後には何と義理の妹の琴音と会社の
役員で現場で仕切る男、大学の先輩の太田さんの嫁にと迎えられている。
 既に、郷の義母も五十手前に為られているし、松原の妙子さんも同じ年
になっていた。
自ずから関係してきた女性も其々年を重ねられて行く。
あの晴美さんは、既に五歳の男の子の母親だし、なんと小百合さんにも
子供が出来ている、今四歳・・。
然も八尾の家には生まれたての子が居る、あの強烈な抱き合いを重ねて
きた幸さんにも亮太の子が出来ていた。
総て亮太の子供達なのだ、頭を抱えるが、産むと言い張られて従う亮太、
郷の義母が大笑いする中で、行いは確実に証拠が残されていたのだ。

 平成、十四年五月十二日、携帯にとんでもない知らせが来た。
急いで亮太は言われる場所にと車を走らせ、向い先は、神戸の病院だ。
電話では倒れて運ばれたとだけ聞かされるが、中身は知らない、
其れで向かった。
大学病院に到着して駆け込む、其の廊下には早苗さんが項垂れて長椅子に
座られている。
 亮太を見ると立ちあがってしがみ付き、大泣きされる。
其れ程一大事と、危惧している事が当たると亮太は抱き付かれた体を支え、
背中を撫で乍ら、大丈夫や、おじさんは大丈夫やと二度叫んだ。
 落ち込む中で医師に呼ばれて亮太と早苗は向かう。
其処で断罪かと思うほど強烈な言葉を耳にする。
 「脳溢血でした、既に手が付けられない場所で、何とも様子を見ないと」
歯に物が挟まるような言い方をされるが、
其処は判断で聞く側も理解をと言われているのだ。
 昏睡状態、其れで起こった場所が悪い、神戸のホテルの一室、連れが居た。
早苗さんが泣き崩れるのは仕方ないが、余りにも衝撃過ぎた場所と同伴者、
あれほど仲睦まじい夫婦でも有るのかと耳を疑いつつ、我身も然りと亮太は
思い知らされた。
 夜中、何とか早苗さんを連れて家に戻るが憔悴された侭、婆様も既に年が
行き、動きも儘為らない姿、此処も相当やつれた姿同士だった。
 だが、亮太には思いもしない事で慌てているが、どっこい亮太が進んで動く
事が有ると知る。
其れはホテルでの同伴者の存在だった。
直に弁護士と連絡を取りつつ、事の経緯を話す、其の弁護士は長年この家の事
で動かれている人、其処に報告をして、相手の処理を頼んでいた。
遣る事は未だ有った、なんとこの家には子供が居ないと以前から知っていた、
早苗さんは後妻、前妻にも子供は居ない、其処を考えている。
弁護士に聞いたが、遺書紛いの物は預かっていないと知る。
 六月に入るが依然としておじさんは目を開けてくれない、毎日通う中で色々
な問題が起こりつつある、会社は既に管理だけの仕事、持つ建物の管理だけ、
数が多過ぎるし、遺産問題も生じる筈、あれやこれやで、
この家も大変だと思い知った。
 そんな時イチバン頼りになるのは、千里の紘一さんだった。
「亮太話がある・・」呼ばれて千里の家にと向かう,其処には舞子さんが
居られるし安気に向かえた。
「大変じゃな、お前も腹を括れよ」「え・・」
「そうじゃ無いとあの家が大変やないか」「言えますけど、何も力になる事
が出来ないと歯痒いんです」「判るがお前が確りせんと困るな~舞子・・」
「ええ、亮太さんが居るからと聞いて居るし、此処で踏ん張って下さい」
そう言われる。
「それでなお前に話す事が有るんだ、互いに遺書紛いを書残そうと決めてな、
有る」「ええ、じゃ何処にですか、弁護士には無いと言われたんです」
「其処じゃが、お互い色々と在るんだ、其処で相談して互いの弁護士に交互
して預けようと決めていた」「え、では・・」
「そうや、今まで使う弁護士には色々と柵がある、其処で互いの弁護士にと
話し合っていたんだ」「なんと、そうですか、言えますよね」
「ああ、この世は世知辛いしな、考えるんだ」
「良かった、あれば良いかと願っていたんです」
「そうやな、でな、明日にでも一緒に向かうか・・」
「ええ、僕じゃ拙いでしょうが・・」「だからだ、早苗さん連れて来い」
「其処は約束できますが・・」そう決まった。
 六月三日午前十時、大阪の大手の弁護士事務所に早苗さんを連れて向かう。
無論、紘一さんも同席、其処で遺書を手渡され、早苗さんが開封された。
 読み終えると涙目で紘一さんに手渡され、亮太の手を握り泣かれる。
「此れ君も読むんだ・・」「え、僕がですか、良いです、奥さんが読まれて
いるし・・」「お前も読むんだ、良いな・・」従う。
『・・、・・、・・、ええ~~~』突拍子も無い声を挙げて仕舞う。
「何で、此れおじさん・・」「ああ、君にと言う理由は理解して置けや,
管理だけじゃろうが、お前に委ねると書かれて居るんだぞ、お前しか信用
できないと言われているわ,財産は既に、早苗さんにと書かれているし、
問題は起こらん、管理はお前にと指名されて居る、何とか考えてくれ・・」
「おじさん・・」「早苗さんの事を考えろや、男は其処で踏ん張れ・・」
「・・、では早苗さん、良いんですか・・」「お願い出来る・・」
「はい、おじさんからの命令なら・・」「命令じゃ、俺もそう告げる・・」
「判りました、勉強します」「良かったね、早苗さん・・」
「はい、地獄に仏です」何とか笑顔を魅せようとされる顔が引きつってた。
 だがだが、其れを知るのかおじさんはその三日後永眠された、
倒れた後から一度も目を覚まされずに眠り続けた侭亡くなられたのだ。
思えば苦しむ事すらしない死に方だと紘一さんが言われる中、
早苗さんは苦悶の日々を過ごされた後この結果なのだ・・。
 三日後、盛大な葬式が行われ、参列者の壮観な事、
関西在住の経営者や東京からも多くの著名人が参列されていた。
亮太は受付で奮闘、後かたずけ迄仕切りなんとか終える事が出来る。
 六月十二日、朝を迎えたのは芦屋の家、泊まり込んで必死で通夜と葬式
を終えた疲れか、昼まで寝てしまった。
 思えば、この家との関りはこの同じ時期の雨だった・・、
そう思いだすと長い付合いかと思われるが、十年間足らずと分かった。
(この家と長い付き合いを望まれていたんだ、おじさん・・)
天を仰ぐ顔には涙が溢れて来る亮太の顔が歪んで行く・・。

                  つづく・・・・。