望情小説110弾《獅子身中の獣‹二重人格›・・36》

 亮太は今まで以上に芦屋の家に通い詰める。
其処を懸念され、今は腰の具合が悪いからと引退されていた、
婆様の紹介で今新しいお手伝いさんが来られていた。
年は六十過ぎだが、この人も親族の人、この家の親族は幅がある、
府会議員、県会議員で現役の人も複数居られるし、あらゆる方面で野田一族
は健在と聞かされる。
 その証拠に七月二十二日の四十九日には多勢の親族が集まられている。
そんな中で相変らず下ごしらえから何もかも雑用は亮太がした。
其の所為か、奥さんも次第に元気を取り戻そうと懸命にリハビリ、漸く、
夏の盛りに、大仕事を終えられた奥さんが二日ほど寝込まれた、
其れは周りの手前よと布団の中から言い訳されている。
 何とか七月を終えると、真夏日が続いて来た、流石に其れには未だ健康
じゃない奥さんには応えた様子、其処で千里の紘一さんから電話が来て、
有馬温泉でも行かんかと言われる。
其れを伝えると有馬は山奥だし、どうせなら海が見える場所が良いと呟く
ように言われた。
 其れで亮太が千里の家に電話すると、たまたま舞子さんが電話に出て来る。
「あら~そうやわね、良いわ私も参加したいけどお邪魔・・」
「ええ、とんでもないけえ、なしてそが~な事いんさるん・・」
「うふっ、慌てて、方言が出捲りやね」電話の向こうで笑われた。
 だが、その電話を紘一さんに告げると、行け君も行けば良いじゃないか、
僕は直ぐには身体が明けられんし、知り得た仲じゃ無いか行きなさいと
言われたと聞く。
 「ま~じゃ良いわ,行こうか・・」「え、行きますか、じゃ相手に電話
して都合を聞くけど、本当に・・」「ええ、海が見たいわ・・」
其れで又も千里に電話する、今度は携帯にしてと言われる始末、
舞子さんは相変わらずな人だと舌を巻く・・。
 八月のお盆前、なんと行く事に為った、行くと言ったら総て舞子さんが
手配すると言われ従う事に為る。
 八月七日、遂にその日が来た、朝からソワソワされる奥さんを新しい
お手伝いさんが笑われた。
「ま~まるで子供の遠足やね・・」「そうやわ、其処やね忘れていたわ」
そう答えて大笑いされた。
 午前八時、二人は車で芦屋を出る、無論運転手で亮太も一緒、
しかも千里で舞子さんを乗せて向かう事に為っていた。
「おう~来られましたね、舞子が同伴すると言うから任せるわ、でも俺も
行きたいが・・」「行けば良いじゃ在りませんか・・、お仕事なの・・」
「そうや、でも最終日なら行けるやもしれん」「え、時間空きますの・・」
「それがね、仕事が出来たんや・・」「どちらですの・・」
「米子や、飛行機と思ったが、車じゃ・・」
「ま~でわ私たちの行き先は何処に為るんです、途中なんでしょうか・・」
「ミステリ-やと舞子が笑うから行く先は知らんけど方向は一緒やて・・」
「あらら、じゃ車なら途中に為りますの・・」「そう聞いたが・・」
「え、其処ってミステリ-に為るんですかね・・」
「え、おいおい、何じゃ、舞子は温泉と言ったよな・・」
「はい、そう申しましたけどその先はミステリ-で御座いますわ・・」
「うひゃ~言われる~」紘一さんが大笑いされた。
「城崎まで電車で来たら良いやない、お迎えに参りますけど、無論亮太さん
がですけど・・」「く~其処か、良いぞ城崎か行く行く、電話してくれや、
いや待てよ肩透かしくらいそうやな、じゃ電車や時間が決まれば電話するが
良いか・・」「どうぞ、じゃ電話は運転手さんにですよ」
「く~はいはい従いますよ、亮太、男はつらいね・・」
「聞いた事が有る単語ですけえ、笑えます」そう決まると、三人は家を出て
傍の高速のインタ-に乗り上げて走る。
 「もういけすかん人や、ミステリ-じゃ無くなったが・・」
「舞子さん、楽しそうね・・」「お陰様でのんびりと遣らせて頂いて居ます」
「良い事じゃない、亮太の御陰ね」「え、総てそうなんです、姪も亮太さん
の会社に入れて、今は元気が出て来て羨ましい程です」「良いわね・・」
「あのう、其処は少し違うと思いますが・・」「何処が違ったんや・・」
「その会社の役員様が此処に居られますけど・・」
「あ、そうやったわ、御免なさいね・・」
賑やかな車内だが、言い方には多少気に食わないけど・・、
特に舞子の言い方が気に障る。
なんとか耐えて運転し、城崎から先は何とも景色が良い、だが運転する
亮太には危険すぎる道、くねくねと曲がる、坂や下り道を汗を滲ませながら
日本海が見下ろせる道に歓声を挙げられた。
 如何にか午後二時過ぎに現地に到着、荷物をフロントに預け、
三人は周りの景色の素晴しさ感嘆し散歩する。
此処は以前から有名な場所、一人の男が長年苦労して城崎の奥に、こんな
凄い事を成し遂げられていると知る。
奇岩や千畳敷きの大岩に穴を掘り生簀に仕立てて、その中は海の水を引いて
魚の回廊に仕立て上げている。泳ぐ魚は鯛、然も旅人が釣り糸を垂らして
鯛が釣れるのだ。
その生簀が大小幾つも散在する、真見事な設計と労力を重ねた人だった、
旅館も和風と洋館が有り、その横から小山に向かいミニゴルフ場が有る、
一番は日本海の景色の中で奇岩の中に竜宮城まがいの構えで神社が海の中
に有り、其処を囲んで岩上で観覧出来イルカショ-や水族館等もある。
そうして、其処で素焼きの小さな皿を買い、其れを海に投げる、
海で待つ海女さんが上から投げられた小皿を潜取ってくれ渡されるのだ。
子どもも楽しめる場所,大人も然り、夏の夜は千畳敷き広場で音楽会、
果は日によるが、夜店や花火も打ち上げてくれる。
そんな場所で、三人は悲鳴や歓声に包まれつつ、釣り糸を生簀に入れると、
直にでかい鯛が釣り上げられ、其処で一番の歓声が二人の女性から挙がる。
無論釣ったタイは夕食で船盛で刺身が出てくる仕組みだった。
 五時前、未だ明るいが部屋にと通された。
「凄いわ、なんて細やかな心配りかしら、良いわ気に入ったわ・・」
「良かった、舞子も初めてなんよ、以前何かで此処の事読んだから記憶して
たんかな、予約入れたんや」「良いわ、凄く良い、本当に有難う・・」
舞子に抱き付いて早苗は喜びを伝える。
 三人で大風呂に向かうが、其処も粋な計らいが随所に見れ楽しかった。
 夕食はその釣った鯛が船盛で出て来て、二人は手を叩いて喜ぶ。
そんな振りを見ながら亮太は漸く生ビ‐ルをドクドクと喉に流込む事出来た。
 だがだが、亮太が美味しいビ‐ルを飲んでいると、向かい側で座る二人の
胸が浴衣が揺れる中で見透かしが出来る。
普通の男なら其れも良いが、亮太には悪魔の誘いが起こる気配‣・、
我慢する姿は既に舞子には判っていたのだ。
 だが駄目、ウインクして伝えるが、亮太には見逃し伝わっていない、
舞子は焦るが、其処はどうしようもない事、座は酒で盛り上がるし、
早苗は何時に無くテンションが上がり、とんでもない浮かれようなのだ。
 困った、舞子は急いで仲居さんを呼んで奥に布団を敷いてと頼み、
序に酒の宛を新しく頼んで、夕食を夜の宴会に変えようと焦った。
 未だ早いよ~と早苗さんが声を挙げるが,お構いなしで指図しテ‐ブルを
整理をさせる中、無理やり又も大浴場に酔っていながら早苗を誘い向かう。
部屋を出る瞬間、間合いを見つけ、「我慢よ・・」
一言舞子が告げて、よろける早苗を支えて浴場にと向かった。
『・・、・・』残された亮太は意味深な舞子の言い残しの言葉を
何でか考えているが、意味が判っていなかった。

            つづく・・・・。