熟喜小説≪ 開かずの小箱-32 ≫

 部屋を出様とドアの前で、ク-ラ-を切り忘れた事を思い出し
一度部屋に戻り消す。
そうして再び靴を履こうと背を屈めてドアの前で・・、行き成り真央の
面影が浮かんで来た・・。
「真央・・、寂しいよ・・」
そう呟きながらドアを開けて廊下に出てエレベ-タ-に乗った。
 マンション一階のフロア-に出て何時に無く郵便受けを覗いた。
何時もは地下の駐車場にエレベ-タ-で直行するが今日に限って
フロア-に降りていた。
「アア~・・、丁度良かった・・。加藤さんお客さんですよ・・」
警備員室から呼び止められる。
「僕に・・」洋介はフロア-に居る女性を見た。
(誰だ・・、見た事も無い人・・、え・え・何処かで会ったかな・・)
見覚えは定かでは無いが何処と無く会った様な気がする婦人・・、
其れも偉く気品が在り、洗練されている女性だった。
洋介は警備員がこの人と言われて頭を下げ近付いて行く・・。
「加藤ですが、何か・・」「「加藤様、洋介さんですか・・」「そうですが」
「そう、あなたが洋介さん・・ですの・・」「何か僕に・・、用事でも・・」
「・・・」暫く相手は身動きされずに洋介を見ておられる。
「あのう~、何か・・」「え・ア・ア~、済みません。少しお時間良いですか。
何所かにお出掛けの様子ですけど・・」「里に・・、でも用事は何ですか・・」
「はい、込み入りますけど・・、此処では・・」「では喫茶店でも・・」
「其れも・・、お部屋は拙いですの・・」
「部屋・・」洋介は美しい婦人にそう言われて訝る。
部屋にと言われて始めての人、可笑しいと思った。
「アラッ,いけませんわね。急に来て部屋とは・・」
「良いですけど、汚いですよ・・」「無理言って済みません・・」
洋介はもう一度エレベ-タ-に婦人と一緒に乗り込んで部屋にと向う・・。
(こんな洗練された女性が俺に用事・・、なんだろう・・)
狐に馬鹿されたような気持ちで女性の香しい匂いが充満する
エレベ-タ-で思った。
 「どうぞ・・」部屋に案内して又ク-ラ-をかけて、ソファ-の上の物を
急いで片付けて何とか座る場所を作る。
だが婦人は座ろうとせず、周りを見渡し、変な人だなと洋介は思っていた。
「部屋は予想通りね・・、そう此処が・・」「何か・・可笑しいですか・・」
「え・いえ・・」婦人は涼しげな夏着物を見事に着こなされ、帯も麻の様な
荒い織り方で美しい・・。顔も小さくてあの有名な女優・・、
名は・・思い出されないが綺麗な人に似ている。
「此処ですか・・、そう・・此処ね・・」
「何か・・」洋介は様子が変で気に成り聞いた・・。
「平岩真子と申します。娘がお世話に成り、如何しても来て見たいと・・」
「娘さん、何方ですか・・」「アラッ,多く居られますのお付き合いの人・・」
「え・え・いや・・、居ませんが・・」「ではお判りでしょう・・」
「え・え・・、・・、ええ~若しや真央・・、いや真央ちゃんの・・」
「そうです、母親ですのよ・・」仰天して固まる・・。
「こここれは失礼を・・、加藤洋介と申します。娘さんとはお付き合いを
させて頂いています」「そうらしいわね・・。私も昨日知りましたの・・」
「え・え・・、昨日ですか・・」「そうなの・・」「そうでしたか・・」
洋介は思えばどこかで会った様な気がしたのは・・、
何処か面影が在る顔と姿だからだった・・。
「何も挨拶しないでお付き合いして済みません・・」
「・・・」其れには答えず、真央の笑った写真を見つけられて其れを見詰め、
目に涙が溢れている。
 其の様子を尋常では無いと感じて洋介は座り直して聞いた。
「真央ちゃん、お元気ですか・・」「・・・」其れにも答えて貰えない・・。
「僕は会えなくて心配しております・・」「・・・」
「僕は遊びでは無い、本当に好きなのです・・」「・・・」
「僕は・・」「良いわよ、全て知っているから・・」
「え・え・ご存知なのですか・・」「そう・・、全て知っているの・・」
「・・・」今度は洋介が返事できないで固まる・・。
「あなたと真央の関係は全て知ったわ・・」「・・・」
「親が知らない内に女に成り、洋介さんをお兄ちゃんと呼び大好きだと・・」
「・・・」「何もかも知ったわ・・、凄い事も・・」「・・・」「旅行すると・・」
「・・・」「其れが・・元で・・」「・・・」「真央は死んだの・・」
考えても居ない言葉が出た。
「・・・、え・え・ええ・・今・・何と言われました・・」「死んだの・・」
「え・え・ぎゃアア~まさか・・、何時ですか・・」
「先月の十九日、旅行の買い物をしに出てタクシ-に乗っていたら
交通事故に合い、即死でした」聞きたくない言葉・・、衝撃を諸に受けている。
「な・な・んと・・まさか・・、あの真央が・・し・ん・だ・・」
「そうなの・・、思い出したく無いけど・・、死んだの・・」
「・・・」洋介は驚愕して固まり、体が震え出す。
 会えなくなり、其れが死んだとは夢にも思わない出来事、何と一番強烈な
衝撃を諸に受けて、洋介は震える体に目から大粒の涙が零れ出していた。
「おにいちゃんと慕い、命とまで思っていた事を知り、短い人生だったけど
幸せの絶頂で無くなったんだと昨日知りましたの・・」「昨日・・ですか・・」
「そうなの、昨日まで貴方の存在など夢にも思いませんでしたわ・・」
「では何で其れを知られたのは・・」
「そうね、母親が忙しく仕事に追われて、娘の行動など知らなかった・・。
悪い母親と泣いて許しを夕べ位牌に謝ったわ・・」「・・・」
「私は真央の為頑張って来たけど・・、今はもう力が抜けて・・」
其処で我慢されていた涙が零れ出し、お互いが顔をクシャクシャで
泣いていた。
 青天の霹靂とは良く言われるが、まさしく此れがそうだと洋介は
腰を抜かして驚き泣いていた・・。
あの真央が死んだ、今も嘘だと心では叫ぶが現実母親が来て泣いている。
洋介は真央が可愛そうで又涙が出る・・。
 暫く二人は泣いて会話も無く、部屋はクラ-の音がするだけ、
異様な空気の中、洋介は真央の写真を持ち、撫でていた・・。
 「お聞きしますが・・、なんで昨日僕の事が判ったんですか・・」
「そうね、其れを言わなくてはね・・」
母親は持って来た紙袋から何かを出そうとされている・・。
「此れよ、小さな箱が、本棚の隅に在ったの・・。死んだ時は部屋を
調べたけど、こんな箱は気が付かなかったの・・。夕べ泣き疲れて真央の
机に座り、真央を思い出していましたの・・。すると目の前の本棚にこの
小さな箱が隅に在った、何かしらと触って振ったらボコボコと音がしたわ,
何か入っていると思い鍵を開け様としましたが、番号の鍵で中々開かない。
其れで相当の時間かけて何度も番号を並べ替えしたけど開かないの・・、
箱は頑丈でも無い木箱、それも何所にでも売っている様な物で、
壊そうと決めてこじ開けましたの・・」其処で一度溜息をつかれる。
 「箱は如何にか開いたわ・・、其処には手帳、いや日記が一冊入っていて、
下にお守り袋が在るの・・、何所のかと見ると此れも普通のお守りなのよ。
だけど中に入っている物を看て驚いたわ。其処には真っ赤な布の切れ端が
丁寧に畳んで入っているの・・、最初は何かは判らなかった・・。
日記を開いて見たら・・、何と真央の日記は今年の三月十三日、
真央が二十歳になる誕生日から始まっているの・・」
其処で又休まれて大きく息をされる。
 「書き出しに衝撃を受けましたの、真央が強姦未遂に成っている等親の
私が知らない事、そんな怖い目に合っている等とは親には知らせず・・。
其処に貴方が登場して助けてくれたと・・、何度も感謝感謝と書かれている。
其れからは全部貴方の事ばかり・・、母親の母の字も無いわ・・。
全部お兄ちゃんの事、会いたいけど嫌われないかとか、如何したら自然に
会えるかとか・・、乙女の心の葛藤が書かれているのよ・・。
そうして意を決めて駐車場で待ち伏せ、其れで風邪をひいて看病された。
其の事が真央の気持ちを決めたみたいね・・。其れからはお兄ちゃんの為
真央は生きると毎日の日記の最初に、お兄ちゃん命と書いて始まるの・・、
そうして何とか自分を捧げ様とするが中々お兄ちゃんは手を出さない・・。
魅力無いのかと何度も書かれている。そうして五月に遂に女に為れたと
喜んで書いてある。其れも何ペ-ジにも及ぶ詳細な出来事を自分が受けた
感じと悦びが克明に書かれているの・・。挿入された大物、真央が感動する
夜は長いペ-ジに・・、女の悦びを書いて・・、私は怒る所か感動して何度も
読み返していました・・。初体験が好きな人、真央は恵まれていると・・、
其れで毎日が会いたい好きと何度もウザイほど綴られているの・・。
そうしてハワイ旅行を毎日カウントダウンしている、パスポ-トも取って
いるとは知らなかった。旅行は友達と一週間とは聞いていたけど・・、
でも其の悦びも実現出来ずに・・」
其処で顔を手で覆われて泣かれる。
 喉が渇いただろうと冷たいコ-ヒ-を差し出して,其の日記を手にした。
箱は鍵が壊されて横に置いて在る、洋介は涙が溢れて字が読めない・・。
「置いて置きますから後で読んで下さい・・」
そう言われて洋介は頭を下げる。
「何か、私が知らない所で真央は成長していたみたい・・。其れも加藤さんに
助けられて人生が変わった様ね・・」「・・・」
「セックスも赤裸々に書かれている。人に見せるものでは無いから凄い内容」
「す・済みません・・」
「アラッ、貴方が謝る事無いのよ。読んだ私が悪いの、真央の秘密の日記。
生涯大切にと自分で書き残そうと・・」又涙を浮かべ泣かれた・・。
 「あのう・・、御参り出来ますか・・」「ア~、来て下さる。真央が喜ぶわ」
「行かせて下さい」「どうぞ、本当に在り難い、真央に代わってお礼言います」
 そうして二人は部屋を出て真央が住んでいた家にと向う。
車では行かず其れも直近く、マンションを出て大通りを二百メ-トル歩くと
住宅街、其の道を一度左に曲がると角が其の家だと言われる。
モダンな洋館とでも言い表した方が良い粋な家だった。
道から少し高く、石垣の上には生垣が・・、其れも椿か葉が生い茂り、
庭は大きくは無いが手入れされ花が咲き乱れている。
少しの階段を上がると可愛いドアが待っている。
中からおばあさんが出迎えられる、挨拶をして家に入り、直に仏前に座る。
 遺影はにこやかに笑う真央が居る、手を合わせて長い時間拝んでいた。
後ろで母親が・・。「真央、来て貰ったよ、お前が一番会いたい人だよ・・。
良かったね・・」泣きながら後ろで囁かれた。
洋介は肩を揺らして泣く、こんな事が在るのかと怒りながら真央・・、
と心で叫んで大泣きをする・・。
 洋介に神様は美しい花の様な天女を降ろされ真央として合わされた、
悦びを存分に味わう途中でこれ以上幸せには行かせないとでも
思われたのか早々と上にと召された・・。
洋介にはそうとしか思えないほど強烈な出会いと出来事だらけ、
本当に一瞬の凄い幸せを得ていた・・。
「真央・・、愛しているよ・・」洋介はそう呟いて手を合わせていた・・。
無情な別れをさせられた二人は片方が上に行き,片方は現実に残されたが、
洋介は真央を何時までも心に住まわせようと誓った。
 午後六時、漸く仏前から離れる、二時間座ったまま肩を揺らし泣いていた。
「お茶をどうぞ・・」おばあさんが差し出して言われる。
「この人は真央を育ててくれた恩人、でも一番力を落としている人・・」
そう紹介される。
おばあさんは目を真っ赤にして何も言われないが・・、
真央を慈しんで育てられていると感じた。
「今日何所かに行かれり予定では・・」「アア~・・、里ですから伸ばします」
「そう・・、悪いわね・・」「いえ、ここが一番大切ですから・・」
洋介は本当にそう思っていた。
 庭の木のセミが忙しく泣いている、真央の死を悲しむのか
日暮セミが合唱していた・・。

            つづく・・・・。











































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