痛快時代≪ 謀神・・よろずや宗介、第二部 -参拾弐 ≫

 お家騒動は瞬く間に片付いて行った。
浅井本家が出張り、出家の件はものの見事に処理される、母御と弟は
即座に切腹、加担した重臣五名も同罪と為されその場で腹を切らされる。
そうして長高と弥生を向かえ後見人としてリツ様を座らせ、七年後に
長高に主を名乗らせると決まる。
京極家では直に榊原家から同盟を結びたいと願い出てこられ其れを受ける
と共に、八角家には何時でも戦いは受けると警告を言い渡していた。
其れに三田村家では当主と妻は国外追放とされ、子供三人は今井家
預かりと為った。
 事が起こって五日が経ったが・・、宗介の身は何処にも見当たらない、
其れに岩蔵も源次郎も頭を抱える。
「オイ、岩蔵、又逃げられたな・・」「左様、何時もですぞ、参ります」
「此度はそうは簡単に逃げまいとたかを食っていたが、真判らん人だ」
「左様です、其処が又堪らず良い所と見まするが・・」
「置いておかれた我らは困るワ・・」左様ですな、如何致しましょう」
「此処に居座る事も出来まい・・」「そうですな・・」
マツ婆様の家はもう二人しか居なかった。
惣兵衛に呼ばれ小夜とネネとタカは多賀屋に行き商いを教わってる。
赤尾爺様から毎日のように宗介を捜してくれと使いが来るが、二人には
皆目見当すら判らない、タマミにもしつこく聞くがこっちも捜しているんだ
と反対に捜してと頼まれる始末、二人は今日も頭を抱えていた。
「仕方が無いわ・・、梢みたいに綺麗サッパリと此処を払い戻ろうか・・」
「左様ですな、尾張に戻りますか・・」「そうだな、でも此処は楽しかったぞ、
岩蔵、俺は凄く成長した様な気がする」「ウフッ、ネネ殿の御蔭ですな・・」
「オウ~そうだ、おい、アソコの家、改築と聞くがもう始まったのか・・」
「昨日からだと聞きますが・・」「そうか戻っても用事は無い、此処は手伝うか、
お礼の意味を込めて・・」「アア~そうですな大工仕事でも習いますか・・」
暢気な二人はそう思うと腰を上げる。
 一方、浅井家出家の屋敷からイソイソとタマミが出て来て、キョロキョロ
しながら山手にある大きな屋敷に消える。
「あんた、待った・・」「オウ~退屈じゃ・・、で如何だった・・」
「教えて頂いたとおり奥方様に伝えました」「そうか・・」「ね~お昼如何する」
「そうだな、抜くか・・」「駄目ですよ・・」「ぁ・アア~あんたは・・」
「ウフッ、義姉さんあの・・、心配して兄が・・」「そうかすまぬ・・」
「用意致しますね、此れから総て食事や家の事は致しますよ」
「家は良いのか・・」「義母が元気だから都合が良いの・・、二人女が家に
居ると困るから・・」「なるほど言えるが・・、夫は・・」
「今は浅井家に出向いて頑張って再興に精を出していて嬉しそうよ」
「よかった・・」「タマミ・・、お昼よ、未だお勤め在るでしょう・・」
「では頼めます」「任せて・・、元気が出る食事作るわ・・」
「嬉しい、では後は御願いします」「良いよ・・」
 この屋敷は以前リツ様が使われていた屋敷で、本拠地に移るまで住んで
いたが今は誰も住んでは居なかった。
後見人に為る代わり国を治める手立てを教えてくれと奥方様に頼まれ、
せめて半年から一年は傍にいて欲しいと条件を出されていたのだ。
嫌とは居えず可愛い子供の為にも宗介は此処に居たいのは本音だった。
所在を知るのはタマミの家族と其れに奥方様、後は宗介は此処にもう
居ないとされている。
だが巷の話は備にタマミが報告している、小夜やネネやタカが惣兵衛の
招きで多賀屋で商いを学んでいる事も知っていた。
今一番の仕事は影で政治の仕組みを奥方様に伝授するのが仕事、
既に五人の人を選抜して奥方様を囲み色んな議題を話し合っている。
今日も宗介に言われて各部落に何時でも進言出来る人を選び、それらは
月に一度集まり意見を聞く組織を作ろうと会議を始めた所だった。
長高の父親の意思を引き継ぎ宗介が思う国に仕立て上げようと思っている。
 「フ~雪か・・、未だ春は遠いな~・・」
深々と降る雪を眺めて久し振りに落ち着いた時間を過す。
「そう言えば・・、あの砦ペッシャンコだそうよ」「そうか・・」
「それでね、残された家族が・・」「ぁ・アア~そうか、そうだ、幾人いや
家族の数は・・」「百に及ぶそうよ・・」「ウへ~凄い数だな・・」
「このさむ空で可哀そうに、家族は悪くないのに、アラッ、御免・・」
「良いんだ、本当だからな・・」顔面を思いっきり叩かれた感じがする。
人を少しでも殺めないようにと考えていたが今回はそうは行かなかった、
結果今聞いたとおり家族が既に困っている。
「で・・、聞くが竜安寺は如何している」
「其れが、無くなった人の家族など面倒を見る様子は無い、どうも其処に
八角が押寄せると噂が出て大変な騒ぎと夫が言っていたわ・・」
「そうか・・」一つ片付けても又其れに纏わる問題が出る、致し方ないが
其処には宗介が絡んでいるから・・、そうかと聞き流す訳にも行かず,
聞いて如何するか悩んでいた。
「では先が見えず困るな・・」「其処ね、いやね~戦は・・」「そうだな・・」
宗介はそう返事しながらいっそう気が滅入る。
 其の夜、タマミが戻ると直聞いた。
「オイ、奥方様に会えぬか・・」「良いけど何時・・」「早い方が良いが・・」
「此処に呼びます」「出来るか・・」「簡単よ、呼んでくる」
いやはや行動が早い子だった。
 「急用ですの・・」「御意、頼みが在る、国の独身男の名簿を作ってくれ」
「マ~なんでですの・・」「其れは聞くな、後で相談致すが凡そで構わぬ」
「良いですけどタマミ・・」「兄に内緒で作らせまする」
「そうして、で貴方は・・」「拙者、何・・」「マ~呼びつけてそれだけ・・」
「左様だが何か・・」「呆れた、本当に女御を大切に為さる方なの・・」
「其れは・・」「奥方様・・、正攻法では逃げられますよ」「ま~そうなの・・」
「良いですか・・、其処は成り行きで待って下さい・・」
「マ~偉そうにタマミは変わったわね・・」「この人の御蔭いや所為かな」
「おホッ、言えるわ、リツも貴方がいなければ後見人は受けなかったわ、
責任とってね・・」「うへ~其れは・・」「何よ、今更逃しませぬぞ」
「オイ、タマミ助けてくれ」「知りませぬ、奥方様の気持ち判りますから・・」
「オイ、其れは・・」「いいえ、幾ら体を許したといえ、奥方様の味方です」
「参った・・」宗介の困る姿を見てリツは笑う、可愛い男だと思っていた。
(此れは片付けなければ後々まで恨まれるぞ、大変だ・・)
その夜宗介は寝ずに其の事を考えていた。
 数日後、タマミが名簿を持参する。
「へ~四十人か・・、待てよ此れは・・」末尾に次男坊以下は百人余りと
書かれていた。(ウへ~そうかそうだよな居るよな・・)
年別に宗介は書き直し、又郷士と百姓を分ける。
「ようし・・、でかけるかな・・」誰にも告げず宗介は姿を消す。
 一方、岩蔵と源次郎は雪の中ネネの家の土間に居た、相当工事は進み
後は部屋を一つ潰して土間と一緒に店として蘇らせている。
「オウ~できるぞもう少しだ・・」大工とそう言ってせっせと動いていた。
 「ま~あんた達・・、ひえ~凄いじゃない・・」
「オイオイ如何した見違えたぞ・・」「如何・・、綺麗・・」
「うん・・、違う人かと思った・・」
「アハッ、主殿が着物をたくさん拵えて頂いたの、荷物もやがて来る、
計算が難しくてね・・、大変・・」「アハッそうだな・・、タカさん・・」
「なあに・・」「あんた綺麗・・」
「馬鹿ね、手伝ってくれているとは知らなかったわ、御礼するね何が良い」
「知っているくせに・・」「マ~岩蔵さん・・、其れは充分にね・・」
「うほう~聞いたか・・」「たわけ、後始末だぞ」「オウ~シ・・、任せ・・」
二人の男を見てネネとタカは笑う。
 其の頃宗介は雪の中をひたすら歩いてどこかに向かっていた。
尾張方面でもなく、赤尾家でもないし無論幸の家でも方向が違っていた。
ネネの家では既に二組が卑猥な声をあげている真っ最中・・、
だが宗介は凍える体に鞭をうちながら暗い夜道を歩いて消えた。
世の中の矛盾を抱え又引き起こす元となった宗介・・、この凍て付く寒さが
拷問かと思うほど耐えて歩く、何処に向かうのか顔だけは引き締まり、
どこか異様に見えるほど目が輝いていた。

                    つづく・・・・。  















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