望愛小説《獣が道を造る・・23》
仕事の話は皆目二人はしていない、裕太は此処に居ては不味いと思えるが、
美津さんの顔はそうじゃ無いみたいだった。
「な、僕帰ろうか・・」「え、あんた来たばっかりじゃない居りんさいよ」
「聡子さんが居りんさるし僕は良いじゃろう」
「良い訳無いがね、まるで邪魔しに来たみたいじゃね、美津さん」
「え、何で、仲間じゃないね」「うふっ、そうだけどね、今日店で話が出た」
「何・・」「其れね美津さんの事」「ええ~私か何、仕事はしているぞ」
「ううん、其処じゃ無いけえね」「何処じゃ・・」「女よ・・」
「女、当たり前だが美津が男なら可笑しいわ」笑われるが聡子さんは笑わない。
「それ最近綺麗だといんさる、聡子もそうだと思うから、何でそう綺麗に
為れるのかを聞きに来たんよ」「うへ~、そうかね綺麗に見えるんか・・」
「ええ、以前よりずっと綺麗よ」「有難う、仕事に張りがあるからかね」
「え~其処は聡子も同じじゃないね、何で差が出来るん」
「差等無いけ、聡子はもともと綺麗じゃないね、ね~裕太・・」
「うん、そうだ」「ええ~あんたね・・」睨んで言われる。
そんな話をしているうちに裕太は帰ると言い家を出てしまう。
(今日は此れで良い、いると如何なる事か・・)尻尾を巻いて退散する。
九月二十七日が来た、その日は丁度広島に行かない日、裕太は真弓さん
の家に四十九日の法要に出向いた。
既に親戚の人の顔も揃う中、仕事関係で裕太は席に着いた。
未だ始まるには少し早いのか、皆さん雑談をされ、座は賑やかだった。
「遅いな、おい真弓さん別嬪さんは未だかね」「え~おじさん、誰の事」
「もうあんたの義母さんじゃがね」
「ひや~、聞いたら喜ぶけ~、もう来ると思うけど・・」
そんな会話を裕太は聞いていた。
真弓さんの喪服姿は絶品、姿も良いから映える、目で動かれる姿を追った。
「御免なさいね遅くなりました・・」
部屋の入り口で座り頭を下げられる婦人が居られる。
「もう遅いが、あんたが、来んと座が味気ないがね、此処に座りんさいや」
「はい・・」その夫人を何気なく裕太は見た。
「・・、・・」見た姿のまま、裕太は固まる、其処には信じられない人が
来られているのだ。
雅子は座ると裕太に向かい頭を下げ挨拶、つられて裕太もお辞儀を返す。
「・・、・・」又も固まった。
(何で何できんさったんか、親戚か、嘘だろう・・)
温泉津温泉から三度美代さんの家で抱いて来ている女性が四十九日の法要に
参列された。
もう其処から裕太は何が何だか皆目判らず、お坊様のお経も聞いて居ない。
頭の中は真っ白、其れで意味が読めない、何で何でと何度も思うが理解出来て
いなかった。
我慢出来ずに、隣の婦人に裕太は小声で聞いた。
「あのう、斜め前に座られるご婦人はご親戚ですかね」
「え、あんた存知ないのか、あの人は真弓ちゃんの義母さんに為る方ですよ」
「・・、ええ~・・」そこだけが大きな声を裕太は出してしまう、
慌てて口に手を当てて周り構わず頭を下げていた。
とんでもない事を聞いてしまう、考えれば有り得る、美代さんとの話を問い
詰めて置けばよかったと今更と後悔するが、以後が大変だと息が出来ない
ほど驚いたままだった。
何とか法要が終わり、膳を囲んで食事、膳は黒い漆塗りの綺麗な膳、
食器も総て統一されている。
少しだけ腹に入れるが、斜め前の雅子さんが気に為ってしょうがない、
当たり前だ、男女の中で抱いて来ている身、しかも最高な肉体の持ち主だ、
可部ではしこたま味わう相手なのだ。
(・・)産まれてこの方最悪の場面、食事を頂くと早々にお暇仕様と決めた。
夕方六時過ぎ、其の機会が来た、裕太も帰られる参列者の列に並んでいる。
あと一人で順番が来ると思うた瞬間、誰かが服の袖を掴んで引っ張られた。
「・・、えっ・・」「駄目、後で帰りんさいや、話は後・・ねね・・」
耳元で囁く相手は正しく雅子さん、振り切れず列から離れてしまう、
此処で問答する事が拙いと察したからだった。
一人部屋の片隅で座り、帰られる人を見送る。
「ふ~終わったがね、真弓・・」「義母さん、疲れんさっつろうね」
「少しな、此れであんたもお別れが出来たがね」「言える」
「頑張りんさったし、私も安堵した」「・・」
義理でも親子、並ぶ姿は如何見ても年が近い、其れほど雅子さんも若い証拠、
裕太はこれから如何言って逃げようかと其処ばかり考えていた。
「ふ~、ご苦労様でした、雅子さんもよう来ちゃんさったね」
「今日もお父ちゃんと思っていたんだけど、お父ちゃん、腰を痛めんさって、
代わりに来たけ~」「そうかね、ぐわいは如何ね」
「暫く寝て居れば回復するようよ」「そうかね、じゃ良い方じゃね」
「そう言える」「此れからお話が有るけど良いかね」
「こっちも有るし良いですよ」真弓ちゃんから言えば両方とも母、
しかもどちらも義母の関係に為る二人だった。
午後七時半、家の中は真弓ちゃんと義母さん二人と裕太だけに為る。
「紹介する、真弓が今一番世話になっている田中裕太さん、こっちは真弓の
義母、雅子」「・・、・・」言葉が出ないから頭を下げるだけ。
「あのう僕は帰っても良いでしょう」
「え、貴方は家の大事な人、此れから話す事の、立会人に為って下さいね」
「ええ、お母さん・・」この家の母親にそう言われる。
「お願い・・」横で真弓さんが手を合わせられるのを見ると無下に帰るとは
言えない状態になる。
「さ、終えたね、珠代さん飲みましょうか、話は飲みながらの方がええけ」
「ですね、真弓」「用意する」台所に行かれた。
「雅子さん、真弓の事だけど、お願いがある」
「此処に置いて行けと思いんさるんよね」
「はい、其処ですけ、とっても良くしてくれ、もうあの子が居なくなると
私が如何して良いのやら」「でも、既に相手が居ない家に為ったでしょう」
「そうですが、お願い出来んじゃろうかね」
「じゃ、お聞きしますけど、あの子は一人で此処に居らせるお考えですの」
「いけんじゃろうか、私は其処を頼みたいが・・」
「あのね、あの子は未だ二十五歳ですよ、先を考えると酷いと思いません」
「其処はそうじゃが、珠代が寂しいけ、行けんのじゃがね」
「理解出来るけど、此ればっかりは無体と言っておきます、真弓はどう
考えておりんさる・・」「義母さん、此処も考えないといけんじゃろう」
「それで居る気かねあんた、よう考えれば一時の感情に流されたら、後が
いけんように為るけえね」「そうだけど、義母さんが可愛そう」
「じゃ、あんたは御家で一人で、男も居ないぞ」
「義母さん、そんな言い方しんさんなや、裕太さんが居りんさる」
「そうか、でも立会人だから聞いててもらわないとね」
「考えは真弓の事だけです、此処で居てくれるなら男も子供が出来ても私が
面倒を見たいと思う、息子は若くして亡くなり、其処は辛い思いをさせて
しもうたと謝る、でもおっちゃんさいや、お願いだ真弓ちゃん・・」
そこで家の義母は泣かれ出す。
暫く家の義母の嗚咽が続いた。
「義母さん、良いから泣かないでね」「真弓~~」
慰めが油となり、大泣きされ出す。
「田中さん、お聞きになり如何思われます」「え、僕にそう聞きんさるん、
無体ですよ、他所の家の事だし、立会人ですただの・・」
「ただのですの・・、酷い、其れじゃ真弓が可愛そうじゃないね」
「ええ、義母さん」「だってそうでしょうが、仕事関係は良いとしても、
珠代さんも聞いてて下さいね」「え、聞いています」
「あのね、あんたは仕事関係だけと考えておりんさるけど、真弓はそうじゃ
無いみたいよ」「ええ~、意味が・・」
「あのね、あんたも嫌いじゃ無いでしょうが、真弓から聞いていないけど
見れば判る、真弓を悲しませんようにしてくれんさい、お願いします」
「・・、え~じゃじゃ、貴方、ま~、其れは良い事じゃがね、知らんけ~
真済みません、田中さん、あんたが傍に居てくれんさいや、な真弓如何」
「え~私に来るん、呆れるがね、何で裕太さんが、義母さん、酷い話・・」
「え、じゃ好かんのかこの人」「其処は別です、今はこの家の先行きの話し
でしょうが」「だから言っている、あんたは一人もん、でも嫁に着た家、
里に帰らんとあんたは一人身じゃろうがね」「当たり前よ」
「じゃ此の侭一人で死ぬまでおるん」「其処まではまだ考えておらんけ・・」
「それがいけんのじゃが、ずるずると過ごすとあんたは後で後悔するよ」
「・・」「そうじゃろうね、あんたが此処で情に負けて居座るとこの家の母
も地獄、あんたも地獄に為る、誰が思っても年若い女が一人で居る事が無体
でしょうがね」郷の母親の話しにも一理は有った。
一番困っているのが裕太、雅子さんを見てからとんでもなく気が動転、
有り得ないとさえ思えるから、裕太は無茶苦茶に困惑する。
つづく・・・・。
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