傀隠小説《善と悪と獣の三差路・・9》
決められた事は確実に実行される、本当に午後六時暗くなった中で
嘉人はクルマで名古屋を出る。
無論多恵さんも同乗、だが、此の密室の車内では逃げ場が無いし、
運転をする嘉人に矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
「あんたね、心して聞いてや、此れからあんたと多恵は同じ船に乗って荒海
を耐えて進むのや、其処で聞いて居る事には返答してくれへんやったら、
この先一緒に何事にも向かわれへんやないね、あんた理解しているんかね」
そう言われて、又も質問攻め、そうなると、嘉人は本当の事を話す方が気が
楽かもと考えだす。
其れほど気に為る事ならと、丁度車が名古屋を出て彦根あたりを走る頃から、
自分の生い立ちと里の話を始める。
言葉を挟まずに黙って聞いてくれる姿、嘉人は総てをさらけ出し、
あの里に向かう前の家の中身を流れで話しをした。
「・・、ま~凄い話ね、本当に有るんだ、駆け落ちもそうだけど、お父さん
がむしゃらに働いていたんだね」「そうなるな、僕が気心を理解できる頃は
殆ど家にはいなかった、母に聞くと、山の中で温かい肉布団で寝ているわと、
笑いながら聞かされた」そんな事も話した。
「待ってよ、郷の繋がりが話だけじゃ見えんやないね・・」
「其処はPCに打ち込んでいる」「じゃ家につくと見せて・・」「はい・・」
「良い心がけやないね、その調子よ、此れから一心同体で暴れようや・・」
「多恵さん・・」「何も言わんかて良いわ、既に全て了解する、郷に行く
手前の家、興味あるやん、中身話してよ・・」
そこから、色々と話をする。
「成程ね、じゃ私たちの足場は其処の家が良いね」
「多恵さん、聞くけど何で僕の里・・」
「阿保じゃね、其処は行く行くあんたの根城にするのよ、郷は既に廃れてる
でしょう」「見たい・・」「じゃ、乗込んで何か事業起こそうかね、山本は
既に出来上がった街になっててな動きが出来ないくらい、今はマンションと
住宅で埋まっているし、無論家の分も親戚にも仰山抱えてる満杯や、だから
どこか離れていても土地さえあれば何でも出来るじゃないね、お年寄りが動く
楽しみも其処で造れば良いじゃない、其れと空いている穴埋めも確りと熟し
いいや、多恵も頑張る男なら迎えて見たい、山本じゃ其処が出来ないやんか」
「ええ、多恵さん・・」「「これ、危ないがね、あ・もう直ぐ高速降りるよ、
今は便利になっていてね、本当にアクセスは発達して来た」
そう言われる中、指図通りに道を走った。
「ふ・着いたね、四時間は懸らないけど相当時間が・・、此の道の突き当り
が家よ」言われても判らないが、進んで行く。
「此処・・」「ええ~~~」呆れた、なんと御殿かと思うくらい派手な造り、
屋根は軒が反り返る豪華な家、無論使用されている材木や、建具も息を呑む程
派手で絢爛、家に入ると其れが益々驚きを重ねる始末、圧倒された。
「おう、戻ったか・・」「お父ちゃん、この人や・・」
「夕べ聞いたばかりや、あんた遠くからよう来たね、上がり、あいつは買い物
で直ぐに戻りよるさかい」自分の名前を告げてお世話になりますと頭を下げる。
広く長い廊下は桜材、姿が映るくらい磨かれている。広間に通されると、
直ぐにあの娘さんが戻られ、付いて現れた方はこの家の婆様だと紹介された。
「来てくれたん、有難う・・」「ううん、美保ちゃん、僕邪魔じゃないか・・」
「違うわ、待って居たんや・・」歓迎された。
午後九時過ぎでも食事の用意は出来ていて、家の方も待たれて居られた。
直ぐに遅い夕食を家族全員で始めた。無論豪華な食卓、酒を酌み交わし、
見ていると仲が良い家族と思えた。
『じゃ、此処からは嘉人さんの問題を話そうや・・』「お父ちゃん・・」
「ああ、美保からとお前から聞かされたが、何や面白そうやな・・」
「ええ、其処は違うやん、大変なんやで・・」
「だからじゃが、田舎はよう知らんが、其処はわしらで入れる余地が有りそう
やないか・・」「其処はそうだけど、嘉人さんが・・」
「そうやな、でもよわしらで何とか出来る事有りそうじゃないね」
「有りそうよ、でも田舎が未だ詳しくは知らんし・・」
「其処はお前が出て行って見て来いや、ここ等はもう先の上ばかりで競うてる
現実、此処は人任せで良いけど、田舎はそうじゃ無いだろう」
「そうや、其処が魅力かな・・」「だからじゃ、お前が出て行き見て来い、
其れで何か力になれれば行こう・・」「え、お父ちゃん・・」
「ああ、もうここ等じゃ出番が薄うなってな、喜びが湧かんやろう」
「なんと、では賛成かね」「中身に寄りけりたが複雑な嘉人君の里はわし
じゃ無理、お前なら何とか見極めるゃろう」「あんた・・」
「なな、俺も此処ではもう楽しくは無い、田舎で暴れて見たいがね・・」
「ええ、お父ちゃん、其れって・・」
「馬鹿、其処は言わんでもええが、こいつが舞台を作ってくれるやないか」
「え、あんた・・」「わしは最初から知ってる、お前が宛がった菜摘は最高ゃ
だからこの先も縋り付いて付いて行くが・・」「ええ、あんた、其処・・」
「ああ、其処は付録でも良いじゃろう、わしも後少ないやんかあそこの暴れ方
だから田舎で最高な最期を迎えたいやんか」「あらら、聞いたかね美保・・」
「・・、うん、男やね」「だね、其処が間違っても田舎の為になるなら良し
としようかね」「良いぞ、流石じゃじゃ早く行けや、其処で絡まる糸を解し、
嘉人君の里で認められるような舞台をお前が作れや、名古屋でソコソコの財産
を造られたお父さん、聞いてて身が震えた男なら其処迄頑張れる事は憧れだ、
其れを受け注ぐんだよ嘉人君」「お父さん」「え、君、お父さんか俺・・」
「はい、今突然思わず言ってしまい、済みません・・」
「良いぞ、こ奴は男を垂らし込めるな・・」「お父ちゃん・・」
「美保、良いぞこの男はあいつとは大違いやんか、あいつにお父さんと
呼ばれていたが、なんか気色悪うてな敵わんかった・・」
そう言って大笑いし、嘉人にビ‐ルを注がれる。
「良いわ流石お父ちゃん、見る目が在るわ」「お前に付いて行くが宜しくな」
「え、私に負んぶに抱っこかね・・」「何時もそうじゃ無いか、あいつの事も
そうじゃが、見る目が有るしな、縋るに最適なお前じゃわ」「呆れた・・」
多恵は言われるが満更嫌な気は更々無い、其れは娘の美保も同じだった。
此の侭山本で居れば、良い男と持て囃される中出ても良いとさえ言う。
其れだけ良い暮らしの中でも満足の欲望は満たされて居ないと知らされた。
「田舎よ・・」「ああ、其れで良い、でもよ多恵、発掘は可能じゃろうがね」
「え、女、其れとも仕事・・」
「どっちもじゃが、女性は其処で繋がりが出来れば良い事・・」
「何と、アンタ変わったね・・」「あ、お前に根こそぎ変えられているが」
「ま~・・」そこで家族三人が大笑いされ、聞いて居る嘉人は笑えなかった。
つづく・・・・。
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