望慕小説105弾《夢中を彷徨う・・14》

 澄人と佳恵は午後八時半直ぐに家に戻る。「風呂入れるだぎゃ、行け」
母に言われて二人は風呂にと向かう。
(良い事じゃが、あいつら此の侭続くと良いがな・・)ワインを飲みながら、
前の田から聞こえる蛙の鳴きは、貴子を家の将来にと思いを向かせる。
 風呂から上がると、酒を飲む事に為る。
「ね、澄人さん・・、あんた此処を里と考えてくれんかね、聞くとご両親を
亡くされたと、だったら此処を・・」「お母さん・・」
「頼むけ、少しでもいいだぎゃ、考えてくれんね」「お母さん、有難う・・」
そんな会話も身に染みる、其れほど実は此処に気が置けている証拠だった。
 「ああ、まだ起きておりんさったか・・」
「ええ、ま~雅・・、ええ~雅己もかね、上がれ・・」
家に見た事は無いが、澄人は直ぐに察した。
(あの声は・・、雅・・、ああ~昨日聞いた声だぞ・・)
初めて見るが、其処は声で判断出来る、この家の貴子さんが澄人が寝ている傍
で話をされた相手、今夜は娘と来て居られる。
「雅己、久し振り・・「」「うふっ、元気そうね」「そう見える・・」
「ええ、なんか良い事有ったん・・」「いやだ、のもうワインか・・」
「どっちでもいいけど、この人・・」
「御免、家のお客様、名古屋の遠藤澄人さん、澄人さんこちらあの蛍の谷の
手前に住んでいる、雅代さんと娘の雅己ちゃん・・」
「これは、澄人です」「・・」返事をされずに頭を下げられた。
家の中は急に賑やかに為り出す。親と親、娘と娘、割り込めない程賑やか、
仕方が無いから縁側に出て夜風に浸る。
 居間から漏れ聞こえる話は、なんとステレオタイプ、親たちは少し低い声、
娘は甲高い声,だが中身は理解出来ないが、何度も親がこっちを見られるから
其処は気に為る。
「あんた・・、一度、雅の家ににも行ってくれんね」「え・・」
「あのな、雅の家は七頭の牛がいる、少し臭いぞ」
「少しじゃ無いけえね、相当臭いから、困っている」
娘がそう応えるが、家に行けと言われて驚いた。
返事はしない代わり笑う澄人、牛と聞いてはいるが、元来牛など育てている
場所など知らない身、興味は有るが興味程度、縁側で座り動かなかった。
 「そうかい、じゃ行けるな・・」「良いの・・」
「ああ、あいつも此処だけじゃ暇じゃ、良いぞ行かせるが・・、一万五千円
入るぞ、肉有るか・・」「冷凍庫に為ら有る」
「じゃじゃ其れ食べさせてやれや・・」そんな会話を聞いた。
 二時間後、酔われた姿で帰られる、無論此処には歩いて来たと、
酒を飲むからだと大笑いされた。
三日月のうす暗い夜道を親子は帰られる。
「あんた、良いぞアソコは何か問題がありそうだけど、其れでも行け・・」
「ええ・・」「あのな、あいつら親子は頑張り、今じゃ七頭だがな、其れは
まだ余力がある」「え、意味が・・」
「ここ等は何も無い、あいつの家は牛を育てて売る,だが余り儲からない、
高々七頭じゃ知れているしな、二年間も育てるんだぞ、考えれば判る事、
一年で三頭半分だけだがね」「そうなるんか・・」
「ああ、計算すればそうなる、だがな余力は有るよ」「余力か・・」
「アソコは子供がもう二人いる、男の子は一番下だが、白川で働いているし、
中の娘は高山だ、そいつらを戻せばアソコは働く力が加わる」「・・」
「そんでな、あいつを呼んでいたんだ、あんたは寝ていたけどな・・」
「え、ええ~じゃじゃ・・」「ほう、勘が鋭いぞ、そう写メ・・」
「うぎゃ~、何々・・」大げさに驚くから娘が吃驚する。
「アソコを倒せや、そうすると、ここ等も様変わりできる」「何で・・」
「牛じゃ、広げるには其処しか無いぞここ等は・・」「なんと・・」
「其処を広げればなんぼでも考えが生まれるがね」「牛の事は判らんし」
「だから二日くらい行け、あんたの目で見てからに為ろうがね・・」
「貴子さん・・」「なんの、来てと言われている、行けば良いだけだぎゃ、
見て梃子に合わないなら其れで良いじゃないかね」「貴子さん・・」
「あいつらは相当悩んで、このままじゃ駄目は理解してる、このままだと谷
を出る」「え・・」「そうなろうが、今迄似たような家を数多く見て来た、
子供の頃からな、嘆き悲しみ果ては此処を出てしまう、総てがそうじゃ無い
けどな、大方そんな事になって出てしまうんだ」そう言われ嘆かれた。
「お母さん、其処ね二年前から雅己から聞いて居る」「だろう・・」
「でも色々と考えてはいるのよ、ブランドが欲しいと・・」
「ブランドですか、何・・」澄人は娘の話を聞き返す。
「此処は飛騨牛でしょう」「あ、そうだ、此処もかね・・」
「周りはそうなる、でも其処には飛騨牛の認められた種が必要・・」
「種・・」「そう男の牛でも飛騨の血が入る事・・」
「なんと、そうかそうだよな、成程、でも種付けできるだろう」
「出来るけど金が・・」「え、あそうか値打ちか普通とどう違う・・」
「聞いた話だけど、二倍値段が違う」「何と幾ら・・」
「五万から六万・・」「え、其れで育てて売るんだろう」
「そうなる二年間・・」「でそこでは幾らくらいするん・・」
「ふつうなら六十万前後、ブランドでよでも良い牛なら八十はする・・」
「馬鹿言え、良い牛なら百万は超える」「ええ・・」
「だからじゃ、種付けで其処から売るまでの値段が決まるって事」
「なんと、じゃその雄の種・・」「そうなるがね」「・・」
考えさせられる、今迄牛など同じだと思っていたが、松坂牛を考えれば
理解出来る,血統なのだ。
「なんと、じゃ飛騨牛でもランクが有るんだ」
「大有りだぎゃ、だから高値でもブランド牛の種・・」
「あはっ、羨ましいが」「え~あんた~・・」そこで親子が大笑いする。
 そんな話をしながら、ワインを飲むが、何か味が変わる、
其処には今の話を聞いた後、色々と在るんだと知らされた。
 翌日、澄人は昼前に車で家を出る、「あら~、見た事ある顔だぎゃね」
「そうありますね、コ-ヒ-」何とあのインタ-傍の喫茶店に来ていた。
「あんた、寝心地良いんかね」「え・・」
「うふっ、だってすっきりした顔つきだぎゃ、何処に泊まっているん・・」
「内緒じゃ・・」「あはっ、そう返すかね」「当てようか・・」
「要らんが、怖いぞ・・」「うふっ、もうここ等じゃ噂じゃがね」
「え、嘘・・」「あんたね、幾ら田舎でも其処は窓位閉めて置かんと・・」
「えっ・・」「矢野貴子、及び佳恵・・」「・・」唖然として顔を見詰める。
コーヒ-を持つ手が震える。
「脅かすのは其処までよ、中村屋は気を付けんさいや・・」「ああ~・・」
「そう、私の本家じゃがね、だから聞いただけ、外には漏れていないよ」
「では口留め料幾ら・・」「笑えるがね、じゃその口に当ててくれるかね」
「当てる・・」「そうやが口を男の物で塞げばいい事・・」
「うひゃ~・・、笑えるが・・」大笑いする。
 「ねね、あんた名古屋からだろう・・」「うん・・」
「じゃ、此処に来たんは何でなんね」「え、其処は・・」
「あのね、私を味方にする方が良いぞ、私は気に為る方に傾くよ」「え・・」
「だから、何で此処に来たかと聞いて居るだがね」
「其処は言えません・・」「そうか、あんたは口が堅そうじゃね」「え・・」
「其れで良いが、良いぞ良い男じゃないか、あんたね、私は、中村沙代里、
三十三才、同級生には、矢野悦子・・」「・・、え、え、えええ~~~~」
「当たりかね、当りの筈じゃが、今朝電話したがね」「ええ、何処に・・」
「名古屋じゃが、悦子別名、真奈美じゃがね、同級生で仲良しじゃ・・」
「ああ、なんと、そうでしたか、驚いたが~」
胸を撫で下ろす姿が良いのか大笑いされる。
 話を聞くと、中村屋は叔母だと知る、其れで聞いてワインと絡み、
名古屋から来た男を合わせ、悦子に電話したと聞かされた。
其れもあの夜の泣き叫びは本当に聞こえたと言われる。
頭を掻きながら狭い田舎だとつくづく思い知らされた。
「良いのよ、こんな田舎は何も起こらないし出来ない、でもあんたはよそ者、
其れで良いじゃないね」「・・」
「ねね、此れからはもう遠慮は無いけいね、佳恵も妹みたいなんよ良い子よ、
でもね、聞いたら腰抜かした、今夜あたり家に向かおうと考えていたんだ」
「えっ・・」「あんたは化物だと、だから此処に向かわせたと悦子が・・」
「・・」「ねね、此れから沙代里を味方にせんだぎゃ、力に為れるぞ」
「・・」未だ驚きから解放されて居ないまま、澄人は相手を見ていた。
 「頼まれてもいる、今後の事もだが・・」「えっ・・」
「聞いた、ええ事したがね、悦子が困って居る事解決してくれたと聞いた」
「・・」そこまで知られていたのだ。
 真、蛇に睨まれている蛙同然の澄人の姿だった。

           つづく・・・・。













ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 1

なるほど(納得、参考になった、ヘー)

この記事へのコメント