望愛小説103弾《獣が道を造る・・4》

 広島の市場を出てから此処に着た裕太、其処では美代さんと言われる人と
一時間以上話をしている。
美味しいコ-ヒ-を飲みながら、今話をしている中身は里の婆ちゃんの事、
既に其処に話が行くまでには、裕太の立つ位置が美代には判って来ていたのだ。
「ま~、じゃじゃあんたはお婆様の誘導で・・、なんと凄い人じゃがね」
「うん、郷では一目置かれているよ」
「だろうね、良い事じゃないね、あんたが運ぶ荷物もだが、郷じゃお店も重宝
がられるよね」「言えるね、今はそうだけど先は如何かな・・」
「ますます重要になるけ、あんた頑張りんさいや」
そう言いつつ、なんと美代はこの青年の姿に少し絆されている。
話もそうだが、二度目のはずが、美代には古くから知り合う間に思える程、
二人で居ても落ち着くし、話の話題が美代には湧いて出るように思えた。
 其処には美代が忘れられない事が重なる。
遥か昔、美代には青春時代の思い出が有った。
忘れる事が出来ない、十年前の事、美代が三十の頃、事件は起きた。
 その日もこんな季節、夜一人で家に居た時だった。
当時も隣は空き地、既に其処で暮らしていた親戚は家を解体し大阪に出られた
頃と思える。
夜中に何か音がするから窓を開けて見た、すると自転車が倒れてその傍に男が
一緒に倒れているのだ。
美代は驚いて声を出し、大丈夫ですかと声を懸ける。
すると若い青年が腰を擦り、夜中にすいませんと言う。
でも起き上がれそうにない姿に、寝間着姿で家を飛び出し空地に美代は向う。
男を見ると腰を痛めたのか動けない様子、何とか家にと連れて入り、
入り口の小さな部屋に寝かせた。
「医者呼ぼうね・・」「いんや~、しんさんなや、僕が困るけ・・」
「困るの・・」「はい、家を飛び出した・・」「え、え、家飛び出したん」
「うん・・」そこで何か有ったと思えた。
「寝ておりんさいや、御腹は如何ね」「・・」「腰痛めたんか」
「うん、すぐ手前で転んだ、其処で腰を打ったみたい」
「なんと、そうかねじゃ寝て居れば・・」
「おばさん、いやお姉さん、済みません」何度も頭を下げて謝る。
 暖かいお茶を飲ませて美代は一度部屋を出た。
居間に戻るが気に為る、様子を伺いに土間を歩いて入り口の部屋に向った。
「え・・」なんとその小部屋からすすり泣きが聞こえたのだ。
美代は思わず戸を開けると、青年は泣いていた。
「どが~しんさったん、家を出た事かね」「・・」
「何聞いているけど言えんのか、悪い事かね」「・・」
未だ青年は言葉を発してくれない。
「あんた、悪い事しんさったんか、そうは見えんがのう、なして泣きんさる」
美代が部屋に入ると男はいきなり抱き付いて大泣き、
しかも慟哭まがいの泣き様だった。
へたり込んで男を抱え泣き止むまで待つ、美代は男に対しての怖さはなかった。
 暫く泣くと、鼻をすすり、美代の体から離れた。
「何が有ったん、言えるなら聞きたいけど、あんた家は何処ね・・」
「・・」返事は戻らない。
「良いけ、言いたくないなら言わんでも良いけどね、でもこれからどこに行こう
としたんね」「・・、お姉さん、僕大変な事したがね」
「何しんさったん・・」「・・、僕は悪い男じゃが、何であんな事したのか」
「何したんか、言わんと判らんがね、警察沙汰かね」「・・」
「此れ、黙っては判らんけ~いんさいや」
「姉ちゃん、僕どが~したらいいか判らん」
「阿保じゃ、中身が判らんから何とも仕様が無いけいね、いんさい」
「・・」暫く部屋は静か、漸く青年が口を開く。
 其処から美代は口を挟まずに話し終えるまで傍で聞いていた。
 「え、義理のお姉さんじゃね」「うん、まだ結婚しんさって一年も経たん」
「あらら、其の義姉をあんたがかね・・」
「無我夢中だった、訳が分からんうちに飛びついてた」「あらら・・」
そこからも話を聞いて行く。
「そうかね家は何処・・」「八重」「近くじゃね、其処から自転車かね」
「・・」返事は無いが頷いた。
「じゃ、家は今は誰が居りんさる」其処からも話を聞く。
 名前は浩二で家で農作業の手伝いをしていたと聞く、ホウレンソウ栽培を
兄と一緒にしているのだ。
今兄は仲間と旅行と聞いたら、美代は想像がついた。
「じゃ今家には誰が居りんさる」母と義姉と聞く。
「そうかね、あんた大変な事と理解出来るよね」「はい・・」「そうね」
美代は暫く考える。
 「逃げたら駄目、悪いと思うなら謝ろうか、其れでも駄目なら考えようね」
「え・・」「良いから、あんたは逃げると其処から逃げれるが残された相手は
如何かな」「・・」「あんた、其処を考えて泣いていたんじゃろう」
「・・」「じゃ今夜は此処で泊まりんさい明日にでも何とか考えようね」
美代はそう言い聞かせる。
 朝が来て男を連れて家を出る、自転車に乗って美代も同行、そうして八重の
家にと向い、男を近くに居らせて美代だけが家に乗り込んだ。
 一時間話を終えると、美代は男が待つ場所にと戻り、母も同行されていた。
青年は母を見ると飛びついて大泣き、迎える母は背中をさすり泣き止みを待つ、
その姿に美代は感動する。
その場は美代は引き下がり、数日後、その母と義姉が家に来られ、話を聞いた。
なんとか穏便に済ませたと、義姉は青年が飛び掛かるほどは有ると思えた。
 そんな事の青年が、今居る裕太に思いが被さるのが不思議と美代は思える。
その後その家とは行き来が出来、今は青年は田舎を出て大阪で働いている。
「裕太さん、夕食食べんさるか・・」
「いいや、帰る、こんな時間か、ご馳走様でした」「・・」
苦笑いしながら裕太を見送る、十年前の青年とは違う立位置と知らされた。

           つづく・・・・。















































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